監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
老後の資金が心配で離婚を決断できない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんなとき、離婚に踏み切るための背中を押してくれる制度の一つに“年金分割”があります。
離婚時に問題となる年金分割は、その概要や制度を理解しておくと、老後の資金獲得の不安を和らげることにつながります。特に、長年専業主婦だった方や扶養に入っていた方は要チェックです。
今回は、離婚問題、財産分与等の問題に精通した弁護士法人ALG神戸法律事務所の弁護士が、離婚に絡む【財産分与と年金分割】について取り上げますので、ご一緒に理解を深めていきましょう。
目次
離婚時の財産分与と年金分割制度について
まず、離婚時の財産分与と年金分割は、別の問題と認識しておいてください。
そもそも離婚時の年金分割とは、数ある年金のうち「厚生年金と共済年金」に限定した「婚姻期間中にあたる保険料の納付実績」を分割する制度です。年金に関する法律が、平成16年6月改正、平成19年4月施行され、制度化されたものとなります。
かつては、離婚時の財産分与と同じ括りとされていた年金分割が、本制度化により別問題として扱われるようになりました。
昔とは扱いが異なるので、財産分与とは切り離して考える必要があります。
年金分割の按分割合の決まり
離婚時の年金分割は、夫婦それぞれの将来受け取る年金額を公平にすることを目的としています。
基本的に収入の多い側の分を少ない側に分けることで調整がなされます。このとき、受ける側(収入が少ない側)の持ち分の割合を示すのが“按分割合”です。
按分割合は、2分の1を上限に年金分割の方法によって割合が異なり得ますが、少なくとも以下の範囲内で行うという制限があるので確認しておきましょう。
- 収入の多い側が、もう一方の持分を下回らないようにすること
- 収入の少ない側が、当初の持分を下回らないようにすること
年金分割のできる年金、できない年金
一口に「年金」と言っても、国民年金や共済年金、個人年金など、さまざまな種類があります。
しかし、年金分割の対象となる年金と対象とならない年金がありますので、きちんと区別しておきましょう。
<対象となる年金>
- 厚生年金
- 国家公務員共済年金
- 地方公務員等共済年金
- 私立学校教職員共済年金
<対象とならない年金>
- 国民年金
- 国民年金基金
- 厚生年金基金
- 確定給付企業年金
- 確定拠出年金
- 退職等年金給付
- 適職年金
- 個人年金 など
上記からもわかるように、基本的に厚生年金と共済年金以外は対象としません。
また、婚姻期間外については年金分割の対象外であること、受給資格期間が10年に満たない場合には本人に受給資格がなく年金の受給ができないため、年金分割の対象外になることには注意が必要です。
なお、年金分割の対象となるのは、厚生年金部分のみですが、私的年金のうち企業年金は、「財産分与」の一要素として考慮される可能性があります。
年金分割の種類
年金分割には、合意分割と3号分割の2種類があります。
2つの違いについて下表をみながら比較・整理していきましょう。
合意分割 | 3号分割 | |
---|---|---|
離婚日 | 平成19年4月1日以降 | 平成20年5月1日以降 |
夫婦間の合意 | 必要(合意できない場合は、裁判所が按分割合を決定する) | 不要 |
分割対象期間 | 婚姻期間全体(平成19年4月1日より前の期間も含む) | 婚姻期間のうち、平成20年4月1日以降の「第3号被保険者期間」 |
分割割合 | 夫婦の合意または裁判所が決定した按分割合(上限2分の1 ) | 2分の1 |
請求期限 | 離婚日の翌日から2年以内 | 離婚日の翌日から2年以内 |
対象者 | 第1~第3号被保険者 | 婚姻期間のうち、平成20年4月1日以降に「第3号被保険者期間」があった方のみ |
年金分割の方法
概要がつかめたところで、次は年金分割の具体的な方法について確認していきます。
「合意分割」と「3号分割」で異なりますので、ポイントを押さえておきましょう。
合意分割の場合
「合意分割」とは、夫婦の話し合いによる合意、または裁判所での決定により決まった按分割合で年金分割を行う方法です。では、どうすれば「合意分割」できるのでしょうか。
「合意分割」に至るまでのステップを確認していきます。
夫婦間の合意による場合
まずは、夫婦で割合を決める話し合いをします。
直接話し合ってもいいですし、メールや電話などで済ませても結構です。制限を超えない範囲(当事者が合意できる案分割合の上限は50%です)でお互いに納得できれば、どんな割合にしても構いません。
夫婦間で合意に至れば、その後、年金分割の手続きに進むことになりますが、年金分割の手続き上、合意内容を記した書面が必要となります。この際、①当事者双方で年金事務所へ行くのであれば自署の合意書②片方だけで年金事務所へ行くのであれば公正証書や認証付き私署証書にしておくことをおすすめします。
当事者同士の話し合いで合意できなければ、裁判所で調停手続きを行うことになります。
調停による場合
夫婦による話し合いで合意に至らなかった場合、調停手続きをとることになります。
離婚調停の申立て中に組み込んでもいいですし、別途申し立てることも可能です。
調停は、調停委員が間に入って、話し合いを行います。双方の落としどころが一致し(但し、基本的には案分割合は0.5となるかと思います。)、調停成立となれば調停調書が作られますので、この謄本を年金分割の手続き時に提出することになります。
調停でも合意に至らなければ、自動的に審判手続きが開始します。
審判による場合
調停不成立後に自動移行した審判では、調停の内容や当事者の事情などを考慮したうえで、裁判所が按分割合を決定します。
審判の決定後に作成される審判書の謄本は、年金分割の手続きで必要な書類の一つとなります。
なお、家庭裁判所の審判等に基づき自動的に年金分割がなされるわけではなく、別途、年金事務所へ行くなどして、年金分割の手続きが必要となるので、その点について注意が必要です。
また、審判の決定内容に不服があれば、不服申立て(=即時抗告)を行うこともできますが、審判や裁判では基本的に按分割合2分の1とされるのが実情です。
離婚訴訟における附帯処分の手続き
最終的に裁判という手段もあります。
実際には、年金分割のみの裁判はなく、離婚訴訟に附随して行う“附帯処分”として年金分割の按分割合を決めるよう求めることが基本です。
この場合、判決書の謄本が年金分割の手続き上必要となります。この場合にも、別途年金分割の手続きが必要です。
3号分割の場合
「3号分割」の場合には、専業主婦や扶養に入っていたなど「第3号被保険者」にあたる方が年金事務所にて手続きをすれば完了します。
「3号分割」の按分割合は2分の1と決まっていますので、合意分割に比べて、相手の合意が必要ないのが最大の特徴です。
ただし、「3号分割」の対象となるのは、平成20年4月1日以降の婚姻期間に相当する分に限られるので、平成20年4月1日以前に婚姻をされた方はご注意ください。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
年金分割の手続きの流れ
年金分割の方法が決まったら、手続き自体は、年金事務所で行う必要があります。
ここで流れを整理しておきましょう。
1.年金分割のための情報通知書を請求する(「3号分割」の場合には不要です)
住所地を管轄する年金事務所に「年金分割のための情報通知書」を申請することで、対象期間や当事者双方の標準報酬総額といった年金分割の具体的な内容を知ることができます。当事者双方が請求すれば双方に、一方が請求した場合は、離婚前は請求者に、離婚後は双方に届きます。
請求時必要となる書類は以下のとおりです。
- 年金分割のための情報提供請求書
- 年金手帳または基礎年金番号通知書
- 戸籍謄本、当事者双方の戸籍抄本
- (必要に応じて)マイナンバーカード
- (事実婚の場合)住民票など事実婚関係にある事実を明らかにできる書類
2.按分割合を決める(「3号分割」の場合には不要です)
夫婦による話し合いや、裁判所での決定により決まった按分割合を記した書類を手元に用意します。
3.年金分割改定の請求をする
按分割合が決まったら、管轄の年金事務所に以下の書類を提出することで請求手続きを進めます。
- 標準報酬改定請求書
- 年金手帳
- 離婚後の双方の戸籍謄本、戸籍抄本
- (合意分割の場合)分割割合を証明する書類
- (事実婚の場合)住民票など事実婚関係にある事実を明らかにできる書類
- (必要に応じて)マイナンバーカード、身分証明書、実印など
4.標準報酬改定通知書を受領する
手続き完了後に、日本年金機構から標準報酬改定通知書が交付されます。
改定内容が記載されていますので、内容をきちんと確認するようにしてください。
離婚時の専業主婦の年金分割について
ここで、勘違いしがちな「離婚時の専業主婦の方の年金分割」について誤解を解いておきます。
まず、離婚したらすぐに手元にお金が入るわけではありません。あくまでも“年金”ですので、受給開始年齢に達したらもらえることになります。年金を離婚後すぐの生活費などの当てにはせず、財産分与や慰謝料、就労先を見つけるなどして離婚後の資金を確保する必要があります。
また、対象となるのはあくまでも“婚姻期間に相当する分”のみです。結婚前や離婚後の分は含まれませんし、そもそも相手が厚生年金や共済年金に加入していなければ請求自体叶いません。相手が自営業者や農家だったり、転職により加入期間にブランクがあったりしないか、よく確認しておきましょう。
熟年離婚した場合の年金分割
相場
婚姻期間が長ければ長いほど、年金分割でもらえる金額は多くなる可能性が高いです。
そのため、熟年離婚の場合の年金分割は、若くして離婚したケースよりも高額になることが多いでしょう。
とはいえ、いくら分割できるかはケースバイケースでありますが、実情としては“月数万円程度”となることがほとんどです。
安定した資金獲得とはいえるものの、年金に頼りきりだと生活に支障が出てきますので、カバーできるように対策をしておく必要があります。
年金分割の成立後に配偶者が亡くなってしまった場合
年金分割の成立後に配偶者が亡くなるケースもあり得ます。
この場合の年金分割の取り扱いについて、年金を分割する側を夫、受ける側を妻と仮定して解説します。
夫が亡くなってしまった場合
年金分割の成立後に夫が亡くなってしまった場合でも、前妻の年金受給には何ら影響ありません。
離婚時の年金分割の取り決めどおり、受給できます。
一方、元夫が再婚後亡くなった場合、再婚相手の妻側は注意が必要です。
再婚相手である妻は遺族厚生年金を受け取ることになりますが、この金額は前妻との年金分割後の標準報酬額に基づくことになるため、夫が前妻へ年金分割をしている場合、遺族厚生年金は減額された状態となります。
妻が亡くなってしまった場合
年金分割を受ける側である妻が亡くなったとしても、一度決まった年金の受給額は変わりません。
受給者が亡くなったからといって、妻の分が夫に差し戻されるわけではありませんのでご注意ください。
また、元妻が再婚した場合、亡くなった妻の再婚相手には、厚生年金の受給者が死亡した場合に受け取れる遺族厚生年金が支払われることになります。
離婚時の年金分割に関するQ&A
夫婦共働きの場合、年金分割はどうなりますか?
共働きの場合、話し合いや裁判所の手続きにより按分割合を決めることで合意分割ができます。
高収入の側から低収入の側へと分割するのが基本ですので、夫婦の収入、雇用形態などにより内容が異なり得ます。
例えば、夫は高収入の自営業者で、妻は厚生年金に加入している正社員の場合は、妻の厚生年金を分け合うことになります。また、離婚時は共働きでも、婚姻期間中に専業主婦(主夫)の期間があれば、該当期間分のみ「3号分割」することも可能です。
離婚時の年金分割を拒否することは可能ですか?
離婚時の年金分割は、原則拒否できません。
拒み続けても、結局相手に調停や審判など裁判所への申立てがなされれば、年金分割がなされます。
もっとも、年金分割は請求できる期限が定められているため、請求期限である「離婚成立の翌日から2年」が経過していれば応じる必要はありません。
障害年金を受給していた場合、離婚後に年金分割の対象になりますか?
この場合、障害厚生年金にあたる部分は、年金分割の対象となる可能性があります。
しかし、「3号分割」をするには制限がありますのでご注意ください。
具体的には、受給する側が障害厚生年金加入者で、「3号分割」の対象期間(全部または一部)が、障害厚生年金額の算定の基礎となっている場合には、「3号分割」できません。
これは、障碍者が受給する年金が強制的に減らされるのは妥当でないことから、障害厚生年金の受給者を保護する目的で決められた特例となります。
もっとも、障害認定日が平成20年3月31日以前であれば、障害厚生年金額の算定の基礎とならないため、「3号分割」が可能です。また、上記特例に該当する場合でも、合意分割であれば行うことができます。
離婚後に夫婦のどちらかが再婚した場合、年金分割に影響はありますか?
離婚後に夫婦のどちらかまたは双方が再婚した場合でも、決められた年金分割に変更はありません。
ただし、再婚により個人情報に変更がある場合には、年金事務所にきちんと届け出る必要があります。
また、年金分割を受けた側が再婚した場合、遺族厚生年金は受給対象外となります。
そのため、再婚したら失権手続きを怠らないようにしましょう。
なお、夫婦の間に子供がいる場合、遺族厚生年金はその子供にわたることとなります。
離婚時に年金分割をしなかった場合はどうなりますか?
年金分割は必ず行わなければならない制度ではありません。
収入格差がなかったり、婚姻期間が短かったりするケースでは、受給金額にさほど影響がないため、年金分割のメリットが見出しにくくなります。
逆に、専業主婦(主夫)の方にとっては、将来の年金確保という面でメリットがあります。
ただし、あくまでも受給対象年齢になって受け取れるものなので、離婚後すぐの資金の当てにはできません。また、老後の生活を年金だけに頼るのは現実的ではありませんので、計画性をもっておくことが重要です。
あらかじめ離婚後の年金分割の見込み額を知ることはできますか?
以下に該当する方であれば、情報提供請求書を年金事務所に提出することで確認することができます。
- 50歳以上の方
- 障害年金の受給権者
本請求により確認できる見込み額は、次の3パターンとなります。
- 按分割合の上限(2分の1)
- 按分割合の下限(年金分割をしない場合)
- 希望する按分割合
離婚時の年金分割や財産分与について詳しく知りたいと思ったら弁護士に聞いてみましょう
離婚時の年金分割は、さまざまな事情がからむので、制度を理解したところでご自身のケースに当てはめると正解がわからない……という状況も考えられます。
離婚後の生活を考える上で、年金収入の有無は重要であり、疎かにできる問題ではありません。
くわえて、年金分割は「離婚が成立した日の翌日から2年以内」に行わなければならない点にも注意が必要です。
そこで心強い一助となるのが、弁護士です。
経験豊富な弁護士であれば、離婚後の新しい生活を見据えて、離婚時の年金分割に限らず、財産分与や慰謝料などを総じて任せることができます。
弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで多くの離婚問題を解決に導いており、「あなたのケース」に最良の結果となるようトータル的なリーガルサービスの提供を目指しています。まずは受付職員がご状況を伺いますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)