監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
被相続人(故人)が遺言書を残し、特定の相続人のみが遺産を独り占めにしているなどの事態が判明したとき、他の相続人としては何をどのようにしていくべきでしょうか。
被相続人が作成した遺言書の内容の中に、「遺産を一人に集中させる」旨の記載があった場合には、遺留分の問題となり、他の相続人としては遺留分侵害額請求を請求することが考えられます。
そこで、今回は、相続人に法的に保証されている『遺留分』を実際に獲得していくために、【遺留分侵害額請求】をどのように進めていくべきか、その注意点やポイントなどを相続問題、遺留分問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が以下解説していきます。民法の改正があり、従来までの遺留分減殺請求の制度とは大きく違ってくるので、ぜひご参照ください。
目次
遺留分侵害額請求とは
【遺留分侵害額請求】とは、端的に言えば、『遺留分』を侵害された際に他の相続人が請求して、被相続人が遺言書等で処分した財産の一部を取りもどす制度です。
そこで、まず、『遺留分』について簡単に説明していきますが、被相続人には、生前に財産を贈与するのと同様に、死後も遺言、遺贈や死因贈与などによって自らの財産つまり遺産を自由に処分する権限があります。もっとも、被相続人がすべての財産を勝手に処分できるようになってしまうと、例えば、愛人にすべての財産を渡すなどされた場合には、残された家族は生活に窮してしまうおそれもあります。
そこで、『遺留分』という制度を設け、被相続人が『遺留分』を侵害するほどの財産を処分しても、残された家族などの相続人に一定の財産を残せるようにしたのが、『遺留分』の制度であり、その一環として、【遺留分侵害額請求】という制度が設けられました。
『遺留分』に関しては、以下の記事でも詳しく解説しておりますので、こちらもご参照ください。
そして、【遺留分侵害額請求】とは、2018(平成30)年民法改正に伴い導入された制度で、遺留分減殺請求というものに代わって、遺留分権の行使(遺留分侵害額請求の意思表示)によって、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを目的とする債権を生じさせるものです。
遺留分侵害額請求の方法
上記で見たとおり、特定の相続人等に遺産を独占させるような遺言書があったとしても、他の相続人は、【遺留分侵害額請求】ができます。
では、【遺留分侵害額請求】を行うためには、具体的にはどのようにすればいいのでしょうか。
以下、【遺留分侵害額請求】をする方法や手順等について解説していきたいと思います。
- ① 相手方に遺留分侵害額請求の意思表示を行う。
- ② 相手方と話し合う(協議)
- ③ 合意できたら和解書を作成し,遺留分を受け取る。
- ④ 合意できなかったら調停を行う。
- ⑤ 調停でも合意できなかったら訴訟する。
相手方に遺留分侵害額請求の意思表示を行う
【遺留分侵害額請求】を行うには、まず、【遺留分侵害額請求】を行うという意思表示を明確に行う必要があります。
【遺留分侵害額請求】は、『相続放棄』とは異なり、裁判所に出向かなくても、『遺留分』を侵害している相手方、すなわち、被相続人が遺言等で遺産を渡した相手に対して遺留分侵害額請求をする意思を明確にすれば効力が生じます。
ただ、口頭で行ったとしても、後々言った言わないの水かけ論に発展することも予想されることや、明確に意思表示を残したほうがよいため、以下で触れるとおり「内容証明郵便」で【遺留分侵害額請求】の意思表示をするようにしましょう。
内容証明郵便について
「内容証明郵便」で意思表示を行うことにより、どういう内容の郵便を相手方に出したかが分かるようになります。
具体的には、「内容証明郵便」は、送付する文書を、差出人、郵便局がそれぞれ各1通を保管する謄本2通を含め3通作成し、うち1通を、差出人と受取人の住所氏名を記載した封筒にいれて受取人へと送付することで行われます。
かかる「内容証明郵便」で郵便を行うと、電話や、直接面会のうえ口頭で、あるいは、通常の郵便で意思表示を行った場合などと違い、どのような内容の文書を、いつ送付したのかが、郵便局によって証明されることになり、後日の紛争を防止することができます。
つまり、郵便を受け取った相手は、「そんな内容の意思表示は知らない」、「受け取っていない」などと言えなくなり、確実に【遺留分侵害額請求】を行ったことが証明できることになります。また、【遺留分侵害額請求】は請求の期限があるので、いつ届いたかが分かれば、期限内に【遺留分侵害額請求】を行使したことがわかります。
この点、【遺留分侵害額請求】について、弁護士に依頼すれば、確実に「内容証明郵便」にて【遺留分侵害額請求】を行ってくれるため、安心できると思います。
相手方と話し合う(協議)
上記のような方法で「内容証明郵便を発送し、相手に対して【遺留分侵害額請求】を行ったら、次は、いくら侵害して取り戻せるのか相手との交渉に入ります。
まずは、相手との間で任意に侵害されている額を支払うように交渉することになるでしょう。
もっとも、『遺留分』を侵害されたという側は、できる限り取り戻せる額が大きくなるように、例えば、遺産の土地・建物の価格が高価で、侵害額も大きいと主張するなどするでしょうが、支払う側は、出来る限り支払う額が少なくなるように主張して対立するでしょう。
このように、遺留分侵害額の具体的な金額で相手方と意見が一致しないことが多いと思いますので、このような場合には弁護士に相談したほうが良いでしょう。
合意できたら和解書を作成し、遺留分を受け取る。
上記の相手方との話し合い(協議)がまとまって、【遺留分侵害額請求】について合意ができた場合、合意内容を明らかにするための書面(合意書)を作成しましょう。
具体的には、どれだけの金額を、いつまでに、どのように支払うのか(一括なのか、分割なのか、振込みで支払うのかなど)、清算条項を含むものとするのか、金銭の支払以外の条項をどのように記載すべきか、万が一金額が支払われなかった場合はどうするかなど、合意内容を適正に合意書に記して、後日、言った言わないなど紛争を防止できる内容になっているか、最後まで注意するようにしましょう。
合意できなかったら調停を行う。
逆に、【遺留分侵害額請求】について相手との話し合い(協議)をしても、合意に至らなければ、「調停」を行うことを検討しましょう。【遺留分侵害額請求】については、「調停前置主義」という考え方が採用されているため、いきなり訴訟を提起することはできず、「調停」を先に申し立てなければなりません。
「調停」では、調停委員・調停官という裁判所の第三者を交えて、相手と話し合い(協議)をしていくことになります。
当事者間の話し合いとは異なって、第三者が入るので、相手を説得しやすい面もありますが、当然費用や手間も掛かりますし、請求する側も請求される側も一方的に有利な合意はできないでしょう。
「調停」を行うべきかも含めて、遺留分問題に精通した弁護士に相談すると良いでしょう。
なお、調停の申立先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所か、当事者が合意で定める家庭裁判所です。
調停でも合意できなかったら訴訟する。
「調停」は、家庭裁判所の関与があるとはいえ、基本的には当事者間の話合いですので、当事者間で金額等についての意見が一致しなければ成立しません。
早期解決のために、ある程度譲歩できる部分もあるかもしれませんが、過大な譲歩をする必要はありません。
「調停」を経てもなかなか解決しない場合には、調停を不調等にして終了させ、「訴訟」を提起した方が、解決の近道となることもあります。
「訴訟」の場合には、遺留分問題に精通した弁護士に依頼すべきでしょう。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
特別受益・生前贈与がある場合の遺留分減殺請求の注意点
これまで、【遺留分侵害額請求】の方法や手順について見てきました。
ただし、【遺留分侵害額請求】において、生前贈与などの『特別受益』がある場合には注意が必要です。
まず、『特別受益』とは、被相続人から相続人に対して、「遺贈」された財産、及び、婚姻や養子縁組のため、若しくは生計の資本として生前に「贈与」された財産のことを言います。
この、生前に贈与がされて『特別受益』にあたる場合には、遺産を事前に受け取っていたとみなされる可能性があります。
『遺留分』は上記したとおり、残された相続人の生活を守るための制度です。そのため、例えば、【遺留分侵害額請求】をする側が、生前贈与など『特別受益』とみなされる財産を得ていたときは、遺産を事前に受け取っていたとみなされ、『遺留分』を認めなくても問題ないということになってしまう恐れがあります。
そのため、生前贈与など『特別受益』を受け取っていたとみなされると、『遺留分』が減額等される恐れがある点は注意しましょう。
複数の人に対して遺贈や生前贈与を行っている場合
【遺留分侵害額請求】において、請求する側に生前贈与などがある場合の注意は説明したとおりです。
では、特定の相続人にすべての財産が引き渡された場合ではなく、遺贈を受けた受贈者が複数いる場合や、生前贈与を受けた受贈者が複数いる場合、【遺留分侵害額請求】をすべき相手は誰になるのでしょうか。
この点については民法に規定があり、遺留分侵害額の相手となるのは、
①受遺者(遺贈を受けた者)と受贈者(生前贈与を受けた者)があるときは、受遺者が先、
②複数の遺贈や同時にされた贈与が複数あるときは、目的の価額の割合に応じて負担(但し遺言に別段の意思表示があるときを除きます。)、
③受贈者が複数あるときは、後の受贈者から、順次前の受贈者が負担、
とされています(民法1047条1項)。
つまり、遺贈を受けた者と生前贈与を受けた者に関しては、⑴遺贈を受けた者に対して先に【遺留分侵害額請求】を行い、それでも遺留分を侵害されているときに、⑵生前贈与を受けた者に対して【遺留分侵害額請求】を行うことになります。
これは、遺贈が相続財産からの贈与であるのに対し、生前贈与は、相続財産になる前に生前の時点で贈与されているので、遺贈の方がより遺留分を侵害していると考えられているからです。
税金がかかるケース
相続税の申告・納付期限は、「相続の開始から10ヶ月」とされていますが、【遺留分侵害額請求】は「相続の開始と遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年」とされているため、【遺留分侵害額請求】の時期や内容によっては、例えば譲渡所得税等、相続税以外の税金を支払うことになる場合があります。
また、【遺留分侵害額請求】を受けた側は、一度相続税の申告をしたものの、遺留分の支払いにより遺産の獲得状況が変わることになります。
このような場合には、申告をやり直し、一度納めた相続税の還付を受けることができます(=相続税の更生の請求)。相続財産の更生の請求は、遺留分侵害額請求をされた翌日から4ヶ月以内に、申告書と添付書類を税務署に提出することで行うとされています。
請求には時効がある
【遺留分侵害額請求】には、時効があることにも注意しましょう。
具体的には、
- 相続の開始と遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年
- 相続の開始から10年
を経過した時点で【遺留分侵害額請求】の権利が消滅してしまいます。
権利の消滅を防ぐためには、権利を行使する必要があります。
【遺留分侵害額請求】は、行使すれば当然に効果が生じるため、時効の期限内に一度でも遺留分侵害額請求権を行使、つまり請求や催告等をしておけば、それ以降、時効による消滅の心配は無くなるでしょう。
遺留分侵害額請求のお悩みは弁護士にご相談ください
遺言等によって不公平な遺産等の分割が行われ、ご自身の『遺留分』が侵害されていることが判明したら、すぐに【遺留分侵害額請求】の行使を行いましょう。
しかし、【遺留分侵害額請求】の経験がない方ばかりでしょうから、具体的にどのようなことを、どのように行うかで迷われることも多いかと思います。
また、【遺留分侵害額請求】は、1年の時効という短い期間で遺留分侵害額があるかどうか判断し、【遺留分侵害請求】の意思表示をしなければ、遺留分の侵害がないおそれがあるばかりか、かえって、他の相続人などとの争いを激化させる危険性もあります。
そこで、遺留分侵害額請求については弁護士などの専門家に任せるのが安全と言えるでしょう。遺留分侵害額請求を得意とする弁護士であれば、交渉、調停、訴訟も任せることができます。
弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、相続問題や、遺留分問題に精通し、【遺留分侵害額請求】についての多数の解決を導いてきた経験やノウハウがあります。
【遺留分侵害額請求】についてお悩みの場合は、ぜひお気軽に弁護士法人ALGまでご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)