脅迫罪・恐喝罪・強要罪とは?それぞれの違いや刑罰について
刑法においては、【脅迫罪】、【恐喝罪】、【強要罪】、といった類似した犯罪が定められています。
どのようなケースで、どの犯罪に該当してしまうのか、逮捕された場合にはどのように対応すればよいのか、などについては、事前に知っておくべきでしょう。
そこで、刑事事件、刑事弁護に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、【脅迫罪】、【恐喝罪】、【強要罪】の違いや刑罰などについて解説しますので、ぜひご参照ください。
目次
脅迫・恐喝・強要罪の刑罰
脅迫罪の刑罰
まず、【脅迫罪】の刑罰についてみていきましょう。
【脅迫罪】を犯した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる、とされています(刑法222条)。
恐喝罪の刑罰
次に、【恐喝罪】を犯した者は、「10年以下の懲役に処する」(刑法249条1項)と定められており、【脅迫罪】に比べて重い処罰が設けられています。
強要罪の刑罰
【強要罪】を犯した者は、「3年以下の懲役に処する」(刑法223条1項)と定められており、罰金刑が設けられていないことに留意が必要です。
脅迫・恐喝・強要罪の違い
それでは、上記のような刑罰の違いがある、「脅迫罪」「恐喝罪」「強要罪」の違いを具体的に見ていきましょう。
- 「脅迫罪」
生命、身体、自由、名誉又は財産に対して害悪の告知をした場合に成立 - 「恐喝罪」
暴行又は脅迫により財物を交付させた場合に成立 - 「強要罪」
暴行又は脅迫により人に義務のないことを行わせた場合に成立
このように、それぞれの犯罪は似ているようで、犯罪行為としては全く異なります。
脅迫罪について
まず、【脅迫罪】について具体的に見ていきましょう。
【脅迫罪】は、生命・身体・自由・名誉・財産に対して、危害を加えることを伝えたことに対して成立する犯罪です。
そのため、例えば、「殺す。」、「痛い目に遭わせる」という言動は、その人に危害を加えることを伝える言動といえますので、脅迫罪が成立することになります。
危害を加えることを告知した時点で、【脅迫罪】の既遂になります。
逆に、脅迫罪についての未遂は刑法上規定されておらず、脅迫未遂罪は存在しません。
脅迫罪の時効
【脅迫罪】における時効はあるのでしょうか。
まず、刑事手続における時効とは、「公訴時効」といい、公訴時効を過ぎると検察官が公訴を提起することができなくなります。
そして、【脅迫罪】の「公訴時効」は、3年とされています(刑事訴訟法250条)。
もっとも、刑事手続における時効が、仮に成立した場合でも、民事事件としての時効が完成しておらず損害賠償を請求される場合もあるので注意が必要です。
害悪の告知
【脅迫罪】における害悪の告知、とは何を指すのでしょうか。
【脅迫罪】における害悪の告知とは、一般に人を畏怖させるに足りる害悪の告知をいい、不快感や漠然とした不安案を感じさせるものでは足りず、他人を畏怖させるに足りる程度のものが必要となります。
人を畏怖させるに足りる害悪の告知があったかどうかは、相手方の年齢、性別、職業などの相手方の事情や加害者と相手方との人間関係等具体的な諸事情を考慮して、客観的に判断されます。
例えば、口頭での発言や文書、電話、メール、SNS、殴るそぶりの態度など様々な方法・手段でも内容次第では【脅迫罪】が成立する可能性があります。
脅迫の対象
人を畏怖させるに足りる害悪の告知の相手方・対象となるのは、相手方本人のみならず、その親族も含まれます。
しかし、他方で、相手方本人と親しい人、例えば恋人や友人に対して害悪の告知をしたとしても、原則として【脅迫罪】は成立しません。
恐喝罪について
次に、【恐喝罪】について具体的に見ていきましょう。
【恐喝罪】は、人に恐怖心を生じさせ、意思決定や行動の自由を制圧することにより、財物を交付させ、又は財産上の利益を処分させる犯罪です。
【恐喝罪】の典型例としては、いわゆるカツアゲであり、大人が未成年者に対して、「金を出せ。出さなかったら殴るぞ。」と脅し、未成年者が恐怖心から大人に対して手持ちのお金を渡すといったもの、です。
【恐喝罪】は、財物の交付などを受けることによって既遂になります。
ただし、恐喝行為を行ったものの、財物の交付を受けなかった場合、すなわち、恐喝未遂罪でも処罰されることに注意が必要です。
恐喝罪の時効
上記の【脅迫罪】でも触れましたが、刑事手続における時効とは、公訴時効を指しますが、【恐喝罪】の公訴時効は、7年とされています(刑事訴訟法250条)。
もっとも、【脅迫罪】と同様、刑事手続における時効が成立した場合でも、民事事件としての時効が完成しておらず損害賠償を請求される場合もあるので注意が必要です。
親族間の場合の特例
【脅迫罪】と異なり、【恐喝罪】には、「親族相盗例」という例外が規定されています(刑法251条、244条)。
「親族相盗例」とは、親族間の犯罪については、国家が介入せず、家族間で解決すべきという観点から刑が免除されるという例外です。かかる「親族相盗例」としては、窃盗罪や不動産侵奪罪なども想定されています。
「親族相盗例」は、配偶者、直系血族又は同居の親族の間で恐喝罪を犯した場合に適用されて、刑が免除されることになります。
なお、親族とは、六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族のことをいいます(民法725条等)。
他方で、「配偶者、直系血族又は同居の親族」以外の親族との間の恐喝罪については、親告罪であるため、被害者が告訴をした場合のみ処罰の対象となります。
権利の行使と恐喝罪
次に、恐喝かどうかの判断に悩ましいケースとして、権利行使の際に【恐喝罪】が成立するかという点を触れておきます。
例えば、お金を貸している人が、借りている人がお金を全く返さないためしびれを切らしてしまい、「金返せ。返さないと殴るぞ。」を申しつけ、金銭の返還を受けた場合など、自己の権利を実現するために恐喝的手段を用いた場合、【恐喝罪】が成立するのでしょうか。
裁判所としては、「社会通念上一般的に認容すべきものと認められる程度を逸脱した」場合には権利行使の場面としても【恐喝罪】が成立するとしています。
この点、「社会通念上一般的に認容すべきもの」かどうかは、①権利の行使という正当な目的があったか、②権利の範囲内か、③手段が社会的相当性の範囲内かという観点から判断されます。
強要罪について
最後に、【強要罪】についても具体的に見ていきましょう。
【強要罪】は、相手方やその親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対して害悪を加える旨を告知し、又は本人に暴行を加えることで、相手方に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨げた場合に成立する犯罪です。
例えば、相手方に対して、「謝れ。謝罪しないと殴るぞ。」等と申しつけ、無理に謝罪をさせる行為等が強要罪に該当します。
【強要罪】は、義務のないことを行わせたり、権利行使を妨げたことによって既遂になります。
ただし、強要行為を行ったものの、相手方が何もしなかった場合でも、すなわち、強要未遂罪でも処罰されることに注意が必要です。
強要罪の時効
上記の【脅迫罪】、【恐喝罪】でも触れましたが、刑事手続における時効とは、公訴時効を指しますが、【強要罪】の公訴時効は、3年とされています(刑事訴訟法250条)。
もっとも、【脅迫罪】、【恐喝罪】と同様、刑事手続における時効が成立した場合でも、民事事件としての時効が完成しておらず損害賠償を請求される場合もあるので注意が必要です。
関連する犯罪
【脅迫罪】、【恐喝罪】、【強要罪】に関連する犯罪を見ていきましょう。
強盗罪
まずは、「強盗罪」です。
「強盗罪」は、相手方に暴力を振るったり、脅したりする等、暴行又は脅迫を用いて、相手方の財物を無理矢理に奪った場合に成立する犯罪です。
上記で触れた【恐喝罪】と似ているかもしれませんが、【恐喝罪】と「強盗罪」は、相手方に加える暴行又は脅迫の程度の大きさが異なります
「強盗罪」における暴行又は脅迫は、「犯行を抑圧するに足りる程度の不法な有形力の行使又は害悪の告知」であるのに対し、【恐喝罪】における暴行又は脅迫は、「犯行を抑圧するに至らない程度の不法な有形力の行使又は害悪の告知」であります。
そのため、【強盗罪】が成立しなかった場合に無罪となるのではなく、「恐喝罪」が成立する可能性はあります。
名誉毀損罪
次に、「名誉棄損罪」です。
「名誉棄損罪」は、不特定又は多数の人が認識できるように人の社会的評価を傷つけるような具体的な事実を示すことにより、社会がその人に対して与える評価、社会的な評判、名声等を傷つけることにより成立する犯罪です。
不倫関係にあることを大勢の前で大声で暴露するような場合にあたります。事実の有無にかかわらずに成立しますので、不倫関係が事実であったとしても成立することになります。
【脅迫罪】や【強要罪】のように、害悪の告知は不要である点で大きく異なります。
威力業務妨害罪
次に、「威力業務妨害罪」です。
「威力業務妨害罪」は、人の意思を抑圧するに足りる勢力を示すことにより業務を妨害することによって成立する犯罪です。
ここでいう業務とは、職業その他の社会生活上の地位に基づいて継続して従事する事務のことをいいます。
例えば、クレームの電話を頻繁に入れたり、爆破予告や殺人予告を電話やメールで伝えることが典型例といえます。
上記で触れた【強要罪】と似ているかもしれませんが、【強要罪】と「威力業務妨害罪」は、相手に義務のないことをさせたか、業務を妨害したか、という点で異なります。
人質による強要行為罪
最後に、「人質による強要行為罪」です。
例えば、人質をとって、第三者に対して、「1億円もってこい」という場合には、「人質による強要行為等の処罰に関する法律」が適用され、「人質による強要行為罪」で処罰の対象となります。
刑罰は「6月以上10年以下の懲役」という重い刑に処せられ、未遂も処罰されるため、注意が必要です。
脅迫・恐喝・強要罪で逮捕される場合
上記で見た【脅迫罪】、【恐喝罪】、【強要罪】は、親告罪ではありませんが、警察などの捜査機関が脅迫・恐喝・強要行為を発見し、現行犯逮捕するというケースはほとんどありません。
そのため、【脅迫罪】、【恐喝罪】、【強要罪】で逮捕されるのは、ほとんどの場合、被害者が被害届を提出された場合といえます。
このように、脅迫、恐喝、強要行為等が、面と向かって、第三者がいる場で行われない限り、現行犯逮捕に至ることは少ないと考えられるので、後日に逮捕されることの方が多いでしょう。
脅迫・恐喝・強要を行ってしまった際の対応
仮にですが、脅迫や恐喝、強要行為を行ってしまった場合、被害者への謝罪がまず重要になります。
被害者が謝罪を受け入れてくれれば、示談を成立させる可能性が高まり、示談が成立すれば、不起訴処分となる可能性が高まります。
ただし、むやみに被害者に直接接触すると、被害者の感情を害するおそれもありますし、また、罪証隠滅が疑われる危険もあります。
そこで、脅迫・恐喝・強要行為を行ってしまった場合、被害者が感情的になっている可能性があり、弁護士を通した上での話合いが効果的となるケースも多く、早期の段階で弁護士へ相談することをお勧めします。
脅迫・恐喝・強要の罪に問われた場合は弁護士へ相談を
もし、脅迫・恐喝・強要行為をしてしまったら、なるべく早期に弁護士に相談されることをお勧めします。
上記で説明したとおり、被害者との「示談」が重要となるので、被害者に対して謝罪の意を示し、「示談」を成立させることによって、不起訴処分になる、または起訴されても減刑が見込まれます。
特に、早期に対応することが重要で、これは、被害者の立場から見ても加害者が早期に謝罪、示談に向けた対応をすることにより、心情的に和らぐ、収まる可能性が高いためです。
たとえどのような事情があったとしても、人に害悪の告知をしたり、財物を交付させたり、義務にないことをさせてしまった場合には、【脅迫罪】、【恐喝罪】、【強要罪】が成立するおそれがあります。
自分では問題ないと考えていても、その後の対応次第で刑罰等に大きな差がでる可能性も十分にあるため、脅迫・恐喝・強要行為を起こしてしまったら、速やかに弁護士にご相談ください。
この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで数多くの刑事事件を解決してきた実績がありますので、ぜひ一度ご相談ください。