監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
一口に“離婚”といっても、小さなすれ違いの積み重ねから、相手と同じ空間で過ごすことが億劫になってしまった、あるいは、日常的に相手から暴言を浴びせられ、とてもこれから先の人生を共に歩んでいけるとは思えなくなってしまった…など、そこに行きつくまでの事情はご夫婦によって違ってくるかと思います。
ここでは、離婚に向けた別居を考えている方を対象に、【別居】が、その先の離婚協議やさまざまな手続などにどんな影響をもたらすのか、という内容を中心に解説していきます。
目次
別居すると離婚しやすくなるのは本当か
【別居】の事実によって、離婚が認められる可能性はあります。
離婚を前提とした別居により、夫婦関係の形骸化の事実が積み重なっていくためです。
協議や調停での離婚では、離婚の理由や条件がどうであれ、夫婦双方が納得すれば離婚が成立します。しかし、裁判までもつれこんだ場合には、“婚姻関係の破綻”が証明できなければ、裁判所にそもそも離婚を認めてもらえません。
そこで、浮気など法律上認められる離婚原因(=法定離婚原因)がないケースでは、別居の事実が“婚姻関係の破綻”を証明する要素のひとつとなり得ます。
以降、さらに掘り下げてみていきましょう。
どれくらいの別居期間があれば離婚できる?
どのくらいの別居期間があれば婚姻関係が破綻していると認められるかは、ケースバイケースです。婚姻期間のうちの同居期間と別居期間の対比、別居するまでの経緯など、夫婦ごとに異なるさまざまな事情が判断の対象となるため、一概に「●年」とは言えません。
裁判例を参考にすると、別居期間が「5年」以上の場合には離婚が認められる傾向にあるようですが、それより短い期間、例えば3年程度であっても、“婚姻関係の破綻”が認められれば離婚できる可能性もあります。
なお、有責配偶者(=離婚原因をつくった配偶者)からの離婚請求は原則として認められませんが、「10年」程度の長期の別居期間を経ると、例外的に認められる可能性があります。
単身赴任や家庭内別居も別居として認められる?
単身赴任の場合
単身赴任の事実のみをもって離婚を認めてもらうことは難しいでしょう。
たしかに、別々の場所で生活しているという意味では、別居も単身赴任も違いはありません。しかし、基本的には、単身赴任の期間は離婚における【別居】としてカウントされません。
判断の基準は、そこに離婚を前提とした別居であるかどうかです。
単身赴任は、仕事の転勤などがきっかけであって、夫婦の不仲、つまり婚姻関係が修復し難い状態にあることをきっかけとした【別居】ということはできません。一方で、単身赴任中にどちらかが離婚意思を表明した場合や、単身赴任前から夫婦関係が良好ではなく、単身赴任を機に家に戻らなかった場合などには、離婚を前提としたものとして【別居】にカウントされるケースもあります。
家庭内別居の場合
家庭内別居とは、一つ屋根の下に暮らしながら、夫婦が顔を合わせたり、会話をしたりすることがなく、寝食を別にしている、別居同然の状態のことをいいます。この場合もケースバイケースですが、同居をしているため、夫婦関係が形骸化しているとは直ちに言い難く、夫婦関係が破綻していると客観的に認めてもらうことが難しいというのが実情です。
ただし、家庭内別居に至った原因が、相手の浮気やDV、生活費を支払わないといった法定離婚原因に該当するものであった場合には、家庭内別居に加えて別の離婚理由もあるとして離婚が認められる可能性もあるでしょう。
正当な理由なしに別居すると、離婚時に不利になる
「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない(民法752条)」いう民法上の定めのとおり、夫婦には同居義務があります。つまり、基本的には同居していなければならず、別居することは同居義務に違反することになり、離婚を争う際に不利な要素となり得ます。
もっとも、別居に“正当な理由”がある場合には、その限りではありません。“正当な理由”には、どんなものが該当するのでしょうか?以下見ていきましょう。
正当な理由とはどんなもの?
正当な理由というのは、簡単に言えば、別居することがやむを得ないといえるような理由です。
具体的には、次のようのケースが考えられます。
- 相手に浮気の事実がある
- 相手から物理的な暴力(DV)を受けており、生命身体に危険が及ぶおそれがある
- 相手から精神的な暴力(モラハラ)を受けており、まともに話ができる状態にない
- 喧嘩が絶えないなど、夫婦仲がすでに破綻しており、お互いに別居や離婚を望んでいる
また、先述のとおり転勤による単身赴任や、親の介護のための一時的な帰省などのケースも、同居義務違反を問われないとされています。
不利にならない別居の方法
ここでは、別居をしたことが後々離婚を争う際に不利な要素とならないよう、実践すべきことや、心掛けておくべきことをいくつか紹介します。
相手に別居の同意を得る
夫婦には同居義務がありますから、一方的に別居をしてしまうと同居義務違反になり得るばかりか、その態様によっては悪意の遺棄を行ったものとみなされる可能性があります。
悪意の遺棄とは、例えば、無断で別居し、生活費も渡さないなど、夫婦の同居・協力・扶助義務を果たさないような場合に認定される法定離婚原因の一つです。悪意の遺棄が裁判所に認められれば、離婚原因を作った“有責配偶者”という立場になるため、離婚請求が認められなかったり、慰謝料を請求されたりと、離婚裁判の際に不利な要素となるおそれがあります。
したがって、身の安全の確保を優先すべきケース等を除き、可能であればまずは相手の同意を得て別居を始める必要があるでしょう。
親権を獲得したい場合は子供と一緒に別居する
裁判所は、子供の養育環境はできるだけ変わらない方がいいという、『現状維持の原則』を基準とする考え方を持っています。そのため、子供を連れて別居すると、その監護環境が尊重され、親権が認められやすくなる可能性があります。
親権を獲得し、離婚後も子供と一緒に生活したいという思いがあるならば、子供を連れて別居するようにしましょう。
ただし、相手に無断で子供を連れて別居する、いわゆる“子の連れ去り”は、かえって親権の判定に不利な要素となるおそれがありますし、別居によりそもそも子供の養育環境が変わって子供に影響が及ぶ可能性があるという点には注意が必要です。
相手が浮気していた場合は証拠を確保しておく
もし、相手が浮気をしていて、それを理由に離婚したい、あるいは慰謝料を請求したいという場合に 重要なポイントは、浮気の事実を証明できる証拠があるかどうかです。
浮気の証拠としては、不倫相手とのLINEやメールの履歴、不倫相手との写真等が考えられますが、別居してからそれらを入手するのは難しいため、同居している間に印刷したり写真に残したりして、できる限り証拠を確保しておきましょう。
別居のメリットとデメリット
メリット
離婚原因になり得る
別居期間が長くなると、裁判所に夫婦の実態がなくなっていると認められ、離婚が成立する可能性があります。
相手にプレッシャーをかけることができる
別居をすることで、強い離婚意思があることを相手に伝えることができます。相手が頑なに離婚をしたがらない場合などには、心理的プレッシャーを与えることが有効なケースもあります。
生活保持義務に基づいて生活費を請求できる
夫婦は日々の生活費(=婚姻費用)を負担する必要があり、収入が高い方から低い方に対して生活費を支払う義務があります。したがって、収入がない専業主婦などの場合でも、婚姻費用を請求することで別居後の生活費を得ることができます。
離婚について冷静に考える時間を確保できる
別居をすることで一度冷静になり、本当にパートナーなしでやっていけるのか、離婚後の生活をイメージしたり、夫婦や子供にとって離婚が最善の選択なのかどうかを考えたりする時間を作ることができます。
デメリット
関係の修復が難しい可能性がある
別居をすると、相手の気持ちが離れる可能性が高くなります。後からやっぱり離婚したくないと思い至ったところで、相手も同じ気持ちかどうかはわかりませんので、関係修復を望んでいる場合には、そもそも関係を見直すうえで別居が有効な方法なのかどうか慎重に検討すべきでしょう。
離婚を請求されるリスクがある
自分としては、離婚意思はなく、一度冷静になるつもりで別居を開始したものの、相手から、家を出て行ったことが離婚の意思の表れであるなどと主張され、離婚を請求されるリスクがあります。
証拠の収集が難しくなる
別居によって、浮気などの証拠をつかんだり、相手が所有する財産を調べたりすることが難しくなることが考えられます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
別居の際に持ち出すべきもの
別居の際に持ち出すべきものとして、まずは、自分の貴重品、衣服や生活費に必要なものを持ち出すことになります。
子供を連れて別居する場合は子供の分の貴重品、生活に必要なものも持ち出すようにしましょう。
[例]
- 現金(※夫婦の共有財産である場合、財産分与の際に清算されます。)
- 預金通帳
- キャッシュカード・クレジットカード
- 運転免許証
- マイナンバーカード
- パスポート
- 健康保険証
- 実印
- 常備薬
- 衣類
- 子供の学校関係のもの
- その他処分されたくないもの
続いて、離婚や婚姻費用、慰謝料請求の手続をスムーズに進めるために必要な資料を持ち出します。
別居をする場合、特に財産分与は“別居時”の財産を基準に算定することになるため、相手が財産を隠したり、勝手に処分したりしないよう、また、仮にそのような事態になったとしても、“別居時”に存在した財産を証明できるように、相手方の名義の通帳などの証拠をコピーしたり写真に残すなどしておきます。
なお、相手名義の財産や、同居中に夫婦で築いた共有財産を「持ち出す」ことはトラブルの種になりますので、勝手に持ち出すことは避けるべきです。
[例]
- 源泉徴収
- 給与明細
- 相手名義の通帳
- 不動産登記事項証明書
- 生命保険証書
- 有価証券の資料
- 自動車に関する資料
(※全て写しで可。)
別居に伴う手続き
別居する旨の通知
相手と話し合ったうえで別居するわけではない場合、少なくともLINEや書置きなどで、別居をすることを通知しましょう。特に、子供を連れていくのであれば、誘拐などと警察に届けられてしまい、大事になってしまうおそれがありますので、別居の通知はしておくべきでしょう。
相手の課税証明書の取得
多くの市町村役場では、同居している家族であれば課税証明書を発行してもらえます。
別居中の婚姻費用の請求や、離婚後の養育費を算定するためには、相手の収入を把握しておく必要があります。給与の振込口座や源泉徴収票を確認するという手もありますが、それらの確認が難しい場合、あるいは相手に知られずにこっそり収入を確認したいという場合に、課税証明書は便利です。
もっとも、取得できるのは基本的に本人あるいは同居の家族であるため、別居し、住民票を移す前に取得するのを忘れないようにしましょう。
住民票の移動
市町村役場に転出届・転入届(同一市町村なら転居届)を出すことで、住民票を異動させます。
住民票を転居先に異動させることが別居を示す証拠となり、離婚が認められやすくなることが考えられます。また、公的書類も含め自分宛の郵便物が別居先にきちんと届くようになります。
婚姻費用の請求
離婚手続と同様、まずは婚姻費用の金額等を夫婦間で話し合い、まとまらない場合には家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立てます。調停でも合意できない場合には、裁判官によって夫婦の収入や子供の人数・年齢等、諸々の事情を考慮した審判が下されて、婚姻費用の決定がなされます。
児童手当の受給者変更
もともと児童手当の受給者でない方が子供を連れて別居する場合には、受給者の変更手続が必要です。具体的には、住民票を転居先に移し、離婚に向けた手続を行っていることを証明する資料を用意して、転居先の市町村役場に申請します。
乳幼児医療証・子ども医療証の住所変更
子ども医療証や子ども医療証は、こちらは同一市町村への転居なら住所の変更届を提出します。また、市町村外への転居なら資格の消滅届を提出し(前提として、夫側に資格喪失証明書等の発行を依頼する必要があります)、転居先の役場で改めて医療証を交付してもらいます。
転園・転校手続き
子供を連れた別居の場合、子供の通学・通園先等をどうするか検討しなければなりません。転居先の学校・幼稚園等に編入させる際には、学区域内に住民票が移っていないと、編入を受け入れてくれないおそれがあります。また、逆も然りで、住民票を移動させると、子供を転校・転園させる必要が出てくるでしょう。
別居後、荷物を取りに行きたくなった場合
別居後、うっかり家に置き忘れた荷物などを取りに行きたくなった場合に、相手に無断で別居前の家に入ることは避けましょう。なぜなら、いくら離婚が成立していなくても、また、たとえ自分名義の家であっても、現在の居住者の許可もなく家に侵入する行為は、場合によっては住居侵入罪(刑法130条)に該当する可能性があるからです。
したがって、どうしても必要なものであれば、相手の承諾を得たうえで引き取りに行くか、対象物を配送してもらえるようお願いするといった方法が考えられます。しかし、相手が必ずしも対応してくれるとは限りませんので、持ち出す荷物については別居を始める前に慎重に検討してなるべく別居の際に持ち出すべきでしょう。
別居後、生活が苦しくなってしまった場合
別居をしていても、夫婦には生活費を分担する義務がありますから、相手よりも収入が少ない場合などには、相手から生活費、すなわち「婚姻費用」を受け取ることができます。
別居する際には、あらかじめ婚姻費用について話し合い、金額や支払方法を決めておくことが望ましいですが、そういった話し合いができていない、あるいは、話し合ったにもかかわらず、取り決めどおり支払われていないなど、別居後に生活が苦しくなってしまうことも考えられます。
まずは相手に話し合いを持ち掛け、それでも婚姻費用の支払いに応じてくれないときには、“婚姻費用の分担請求調停”を家庭裁判所に申し立てます。
また、相手のDVなどから逃げるために別居している等の場合には、婚姻費用の請求が難しいケースもあります。そういったケースでは、最寄りの福祉事務所の、「生活保護」の担当者に相談するのも一つの手です。
「生活保護」は、経済的に困っている方に対して、健康で文化的な最低限度の生活を保障するために、相談者に応じた金額を支給する制度です。一定の条件を満たせば、別居中の相手への連絡を避けつつ、援助を受けられる可能性があります。
もっとも、このような場合には、弁護士に相談して、別居して住所を明示しないまま婚姻費用の請求をするなどの手段も考えられますので、離婚問題に精通した弁護士に相談すべきでしょう。
有利な結果と早期解決へ向けて、離婚に詳しい弁護士がアドバイスさせて頂きます
【別居】が離婚の際に有利な条件となるかどうかは、一概に別居をした期間だけでは図れず、ご夫婦が別居に至るまでにたどってきた足跡をみて判断されることになります。
別居後に困ったことが起こらないよう、また、少しでも有利な条件で離婚を成立させるために、別居前にやっておくべきこと、考えておくべきことなどを洗い出し、対策を練ることは非常に大切です。
もし、思い詰めていらっしゃる場合には、離婚事案の実務経験を豊富に積んだ弁護士の“目”が入ることによって、風向きが変わるかもしれません。弁護士法人ALGの神戸法律事務所では、様々な離婚案件を扱ってきており、そういった経験を積んだ弁護士とスタッフが、解決の糸口を探すお手伝いをさせていただきますので、まずはどうぞご相談のお電話をくださいませ。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)