相続欠格になる5つの理由と欠格者が出た場合の相続順位

相続問題

相続欠格になる5つの理由と欠格者が出た場合の相続順位

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

故人(以下、「被相続人」といいます。)が死去した場合には、相続が始まります。
ただし、被相続人の相続の際に、相続人に一定の極めて重大な非行が存在する場合、相続人としての権利が全てはく奪されてしまう場合があります。これを相続欠格といいます。

相続欠格とは、本来相続人である人について、一定の事情がある場合に、当然に相続権を失わせる制度で、違法・不正な手段で相続の利益を得ることを防止することを趣旨としています。
しかし、相続欠格が生じる場合には、相続手続きが複雑になるケースもありますので、注意が必要です。

そこで、本記事では、相続問題、遺産問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が相続欠格の概要や「相続欠格」事由、その影響等について解説しますので、ぜひご参照ください。

目次

相続欠格とは

まず、相続欠格とは、何かを見ていきましょう。
相続欠格とは、民法891条が規定する事由に該当した人の相続権を自動的に失わせるものです。

すなわち、民法所定の欠格事由に該当すれば、当然に相続資格喪失という効果が生じてしまうことになりますが、かかる欠格事由については、以下で詳しく述べます。
そして、相続欠格になる人の範囲は、潜在的な相続権を有する人のすべてであり、以下のような人です。

  • 被相続人の配偶者
  • 被相続人の子
  • 被相続人の両親等
  • 被相続人の兄弟姉妹

どんな場合に相続欠格になるの?

相続欠格は、相続人としての権利を全てはく奪するという、とても強い効果を伴うものですので、その対象は、「被相続人を殺害した場合」等の重大な事由に限定されています(民法891条各号)。

以下、詳しく見ていきましょう。

遺産を手に入れるために、被相続人や他の相続人を殺害した、または殺害しようとした

欠格事由の一つ目は、遺産を手に入れるために、被相続人や他の相続人を殺害した、または殺害しようとした、ケースです。

故意に被相続人や、先順位・同順位の相続人を死亡に至らせ、または至らせようとしたために刑に処せられた者がこれにあたります(民法891条1号)。
そのため、殺人が既遂に至っている場合のみならず、殺人未遂や殺人の準備行為(殺人予備罪)について刑に処せられた人も相続欠格に該当します。

ただし、ここでいう「刑に処せられた」というのは実刑判決が確定したことや、執行猶予が取り消されたことを指しますので、執行猶予中や期間が満了したときは相続欠格には該当しません。

さらに、傷害致死や過失致死等については、故意に殺していないため相続欠格には該当しません。

被相続人が殺害されたことを知りながら黙っていた

欠格事由の二つ目は、遺産を手に入れるために、被相続人や他の相続人を殺害した、または殺害しようとした、ケースです。

被相続人が殺害されたことを知りながら、これを告発・告訴しなかった相続人が対象とされています(民法891条2号)。
これは、被相続人が殺害された当時に告発、告訴するのは相続人の義務であることを前提として、このような義務を果たさなかった道義的責任を課すものです。

そのため、道義的責任を課すことが相当でないと考えられる人については、例外として、相続欠格に該当しないと考えられており、犯人が自身の配偶者や直系血族である人、幼い子供や、認知症等によって告発や告訴はできなかった人がこれに該当します。

詐欺や強迫によって、被相続人が遺言を残すことや取り消すこと、変更することを妨害した

欠格事由の三つ目は、詐欺や強迫によって、被相続人が遺言を残すことや取り消すこと、変更することを妨害した、ケースです。

被相続人の相続に関する遺言の作成や撤回、取り消し、変更等を詐欺又は強迫の手段によって妨げた者が該当します(民法891条3号)。
被相続人の遺言の自由に対する不法な関与を排斥し、自分に有利な相続とするために、被相続人の真意を歪める行為を禁じている趣旨といえます。

詐欺や強迫によって、被相続人に遺言を残させたり、撤回や取消し、変更させたりした

欠格事由の四つ目は、詐欺や強迫によって、被相続人に遺言を残させたり、撤回や取消し、変更させたりした、ケースです。
詐欺又は強迫の手段によって、被相続人に相続に関する遺言をさせたり、撤回、取り消し、変更させたりした場合が該当します(民法891条4号)。

これも上記3号と同様、遺言の自由に対する不法な関与を排斥し、自分に有利な相続とするために、被相続人の真意を歪める行為を禁じている趣旨といえます。

遺言書を偽造、書き換え、隠ぺい、破棄した

欠格事由の五つ目は、遺言書を偽造、書き換え、隠ぺい、破棄した、ケースです。
相続に関する被相続人の遺言を、偽造、変造、破棄、隠匿した場合が該当します(民法891条5号)。

上記の3号や4号と同じく、不法な遺言への関与を排斥し、自分に有利な相続とするために、被相続人の真意を歪める行為を禁じている趣旨といえます。

ただし、破棄や改ざん等によって不当な利益を得ることが目的だった場合についてが相続欠格になると考えられているため、例えば、遺言書が無効になるのを防ぐために押印したようなケースでは、むしろ被相続人の意思を実現させるという正当な目的で、不当な利益を得る目的があるとはいえず、相続欠格に該当しないことになります。

相続欠格者がいる場合、相続順位はどうなる?

それでは、相続欠格となる者がいた場合には、「相続順位」はどうなるのでしょうか。
相続欠格となる者がいる場合には、その者は相続することができなくなりますが、その者に子どもがいる場合には、その子どもが「代襲相続」することとなり、その「相続順位」を引き継ぎます。

また、同順位の法定相続人が「相続欠格」となる者のみであれば、その次に法定相続人になる方が相続人となります。

なお、「相続順位」や「代襲相続」については、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。

相続の順位と相続人の範囲

相続欠格であることは戸籍に表記されない

相続欠格となった場合、相続欠格であることは、何か公的なもの、例えば、戸籍に表記されるのでしょうか。
この点、相続欠格には、廃除の場合のような審判手続や戸籍の公示方法(戸籍法97条)が存在しないため、欠格者かどうかは戸籍等に表示されません。

相続欠格者がいる場合の相続手続き

それでは、相続欠格となる者がいる場合の相続手続きはどのようになるのでしょうか。
まず、上記したとおり、相続欠格は手続を経ることなく、欠格事由があれば法律上当然に相続権を失うという効果が生じるものと解されています。

相続欠格となる者に相続権が存在しないことを前提に遺産分割等を行うことも考えられますが、相続欠格となるかどうかが争いになるケースがあり、そのような場合には、相続権不存在確認訴訟等を利用することになります。

他方で、相続欠格となる者が欠格事由を認めている場合には、上記したとおり、相続欠格となる者が戸籍に記載されるわけではなく、証明する物が必要になるため、その「相続欠格」となる者に相続欠格証明書を作成してもらいましょう。

その上で、残りの相続人で「遺産分割協議」を進めていきましょう。

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相続欠格と相続廃除の違い

それでは、相続欠格に似た用語として、「相続廃除」という用語がありますが、どのような違いがあるのか見ていきましょう。

この点、相続欠格と「相続廃除」は、どちらも相続人の相続に関する権利を失わせるものですが、要件・効果、手続等の異なる制度です。
具体的には、相続欠格の欠格事由は上記のとおり殺害等重大な事由に限定されているのに対し、「相続廃除」は、被相続人に対する虐待、侮辱、著しい非行とされています。

また、相続欠格では、欠格事由が存在すれば、当然に効果が発生するのに対し、「相続廃除」では家庭裁判所の審判手続を必要とします。
なお、「相続廃除」については、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。

相続廃除|相続させたくない人がいる場合の手続き方法

相続欠格に関するQ&A

それでは、以下、相続欠格についてよくある質問に回答しますので、ご参照ください。

相続欠格者が、遺言書に書いてあるのだから遺産をもらえるはずだと言っています。従わなければならないのでしょうか?

相続欠格となる者が、遺言書の権利を主張しても、従う必要はありません。
なぜなら、相続欠格は、遺贈を受ける権利も失うものとされていることから(民法965条)、仮に、遺言書に書いているとしても、基本的に相続欠格となる者は遺産をもらえないという結論になります。

ただし、相続欠格の欠格事由について、被相続人が生前に宥恕(≒許す)することの可否は争いがあるものの、宥恕を肯定されることも多く、欠格者であることを被相続人が知りながらあえてその者に遺贈した事案等では争いになるケースもありますので、ご留意ください。

相続欠格者から遺留分を請求されました。無視していいですか?

相続欠格となる者から、遺留分を請求されたとしても、基本的には応じる必要はありません。
なぜなら、相続欠格となる者は、相続権の全てを失いますので、遺留分もないとされるためです。

そのため、欠格事由が明らかというようなケースでは、請求に応じる必要はありません。
ただし、欠格事由について争いがあるケースや、遺留分について調停・審判手続や訴訟手続を用いてきた場合は、これを無視すると不利になるおそれもありますので、きちんと対応するようにしましょう。

遺産分割後に遺言書の偽造が判明しました。やり直しはできますか?

遺産分割後に遺言書の偽造が判明したケースですが、相続欠格の欠格事由があれば、相続発生時まで遡って相続の権利が失われます。
そのため、その相続欠格となる者、すなわち権利を持たない人がいる状態で行われた「遺産分割協議」については、やり直すこととなります。
なお、「遺産分割協議」については、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。

遺産分割協議とは

相続人の一人が嘘を吹き込み、遺言書を書き直させたようなのですが、証拠がないと言われてしまいました。諦めるしかないのでしょうか?

遺言書を書き直させたようであるが、その証拠がないと言われているケースについては、やはり、欠格事由について立証できるかどうかがポイントとなります。
書き直した場面に立ち会っていた人、目撃者がいないかどうかや、その吹き込んだ「嘘」と正反対の認識を被相続人が遺言書を書き直す直前まで持っていなかったなど、諦めずに証拠を探すようにしましょう。

相続欠格者がいます。相続税の基礎控除額に影響しますか?

相続欠格となる者がいる場合の、相続税の基礎控除額ですが、相続税は、その法定相続人の数によって相続税の基礎控除額が異なります。
相続欠格となる者がいる場合には、その人は相続税の基礎控除額を計算する上での法定相続人の数に入りません。

ただし、その相続欠格者の代襲相続人がいる場合には、その人は法定相続人の数に入ります。

相続欠格証明書を書いてもらえない場合は、諦めて遺産分割するしかないのでしょうか?

相続欠格となる者がいても、相続欠格証明書を記載してくれないケースでは、「相続欠格」であることを公的に示すものが必要になります。
上記したとおり、相続欠格は、戸籍の記載などには表れないため、欠格者を除いた「相続登記」を行う場合、法務局は相続欠格証明書の提出を求めてきます。

そのため、欠格者が任意に作成に応じない場合は、相続権無効確認訴訟を提起し、欠格者に相続権がないことを確定させる必要があります。
なお、「相続登記」については、以下の記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。

相続登記とは

相続欠格に関する問題は弁護士にご相談下さい

これまでみてきたとおり、相続欠格は、遺言書の書換え、偽造等相続人に極めて重大な非行が存在する場合、相続人としての権利が全てはく奪されてしまうという、強い効果を持つのですが、具体的に、その非行があったかを立証できるのかなど容易に手続きを進めるすることはできません。

また、相続欠格が認められるとしても、欠格者に、相続欠格証明書を記載してもらい、応じないようであれば、相続権不存在確認訴訟等の法的な対応を行う必要も出てきます。
相続欠格を主張したい、されているが、どうしたらいいか分からない場合だけでなく、相続欠格後の手続をどうしていくべきか分からない場合など、相続欠格にはあらゆる問題がつきまといます。

この点、弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで、数多くの相続問題、遺産問題を解決してきた実績や経験があります。
相続欠格に関連してお悩みの方は、相続問題、遺産問題に精通した弊所にぜひ一度ご相談ください。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)
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