監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
相続の際に、【相続廃除】という制度が用いられることがあります。
家族や親族に多大なる迷惑や苦労をかけられた場合などでは、どうしても自分の財産を相続させたくない家族や親族がいる方もいらっしゃるかと思います。
このような場合に、特定の相続人を相続から除外すべく利用できる制度が【相続廃除】です。
そこで、かかる【相続廃除】が具体的にどのような内容で、どのような要件があれば利用できるのか、【相続廃除】の要件や具体的な手続きの方法、注意点などについて、相続問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が、以下詳しく解説していきます。
特定の相続人を相続から除外したい方などはぜひご一読ください。
目次
相続廃除とは
【相続廃除】とは、故人(被相続人)の意思によって、推定相続人(将来相続人となるべき人)が相続できなくなるようにする制度です。家庭裁判所に審判を申し立てて、特定の相続人を相続手続から除外する相当な事情があることを認めてもらう必要があります。
つまり、相続人から相続できる権利を奪うものであり、どのような場合でも【相続廃除】が認められるわけではありません。相続人から相続権を奪うことになる以上、相続廃除の可否はかなり慎重に判断され、特定の相続人を相続手続から除外すべき相当な事情があることが必要になりますので、注意しましょう。
相続廃除が認められる要件
では、このように強力な効果を持つ【相続廃除】について、どのような要件があれば、特定の推定相続人を【相続廃除】にできるのでしょうか。
民法では、下記のいずれかの状況があることを要件としています(民法892条)。
①推定相続人が、被相続人に対して「虐待」をしたとき
②推定相続人が、被相続人に「重大な侮辱」を加えたとき
③推定相続人にその他の「著しい非行」があったとき
相続廃除の具体的な事例
上記の規定は抽象的ですので、【相続廃除】となりうるケースについて具体的に見ていきましょう。
被相続人に対して虐待をした場合
まず、①推定相続人が、被相続人に対して「虐待」した場合には、【相続廃除】にあたりうるものといえます。
分かりやすいのは、被相続人への「暴行」がある場合です。
過去の裁判例において、少なくとも3回の暴力行為を認め、その暴力行為の結果、鼻血や肋骨骨折が生じた事例において、「虐待」があったとして相続人の廃除を認めたものがあります。
もちろん、暴力行為の頻度、程度、理由、経緯なども踏まえて具体的に考える必要がありますが、暴力行為が繰り返されていたり、重大な怪我が生じた場合には、「虐待」に当たるといえるでしょう。
また、暴力行為以外でも「虐待」に当たるケースはあります。
例えば、介護が必要な状態の被相続人の介護を一切放置すること(被相続人に対するネグレクト)や、性的虐待などもここにいう「虐待」に当たる可能性があります。
被相続人に対して重大な侮辱をした場合
次に、②推定相続人が、被相続人に「重大な侮辱」を加えた場合には、【相続廃除】にあたりうるものといえます。
単なる侮辱ではなく、「重大な侮辱」である場合とされている点には留意しましょう。
「重大な侮辱」とは、被相続人名誉や感情を著しく害することをいいます。単なる侮辱と「重大な侮辱」を厳密に分けることは難しいですが、裁判例では、被相続人に対して「早く死ね」といって罵倒したうえ、物を投げつけて負傷させた場合などに、重大な侮辱とされたケースがあります。
また、「精神的疾患の症状があり、家庭内でのその言動態様は全く異様」、「妄想性障害や統合失調症などの精神障害がある」などと非難した事例において、「重大な侮辱」に当たるとした事例があります。
著しい非行があった場合
そして、③推定相続人にその他の「著しい非行」がなされた場合には、【相続廃除】にあたりうるものといえます。
これも、単なる非行ではなく、「著しい非行」であるという点には留意しましょう。
「著しい非行」とは、被相続人との信頼関係を破壊する程度の内容であったり、被相続人に重大な精神的負担を与えるような非行がこれにあたると考えるべきでしょう。
過去の裁判例においては、ギャンブルなどで借金を繰り返し、被相続人に2000万円以上の借金を立て替えさせた上、債権者が被相続人の家を見張ったり押しかけたりなどの事情があった事例において、「著しい非行」に該当すると認めたものがあります。これは、経済面で被相続人との関係を壊すほどの内容と認定したといえます。
ただし、例えば、犯罪行為、不貞行為、素行不良なども、被相続人との間の信頼関係を破壊する程度の内容であれば、経済面以外の事情であっても「著しい非行」に当たり、【相続廃除】が認められうるでしょう。
相続欠格と相続廃除の違い
これまで【相続廃除】を見てきましたが、これと似たような制度として、『相続欠格』という制度があります。
かかる『相続欠格』とは、被相続人を死亡させた場合、詐欺又は脅迫によって被相続人に遺言書を作成させた場合など、違法に相続で利得しようとした推定相続人の相続権を失わせるものです。
上記したとおり、同じく相続権を失わせる制度である【相続廃除】は、家庭裁判所への審判の申立てが必要となるのですが、『相続欠格』は、被相続人の意思を必要とせず、欠格事由があれば、当然に相続権を失わせるという点で、【相続廃除】と違いがあります。
相続廃除の手続き方法
それでは、【相続廃除】の方法や手続を見ていきましょう。
【相続廃除】の手続としては、
①生前に家庭裁判所に【推定相続人の廃除】を申し立てる方
法、
②遺言書に【推定相続人の廃除】の意思を示す方法
の2つがあります。
以下、詳しく見ていきましょう。
方法1.被相続人が生前に家裁へ申立てる(生前廃除)
【相続廃除】の方法として、①生前に廃除の申立を行う場合には、以下の資料を用意しましょう。
- 家事審判申立書
- 廃除が相当というべき事情を裏付ける資料
- 申立人(被相続人予定の者、以下同)の戸籍謄本
- 推定相続人(廃除の対象となる相手方)の戸籍謄本
これらの必要書類を準備して、申立人の住所地を管轄する家庭裁判所に審判を申し立てる必要があります。
申立てを受けた家庭裁判所は、申立人、相続人の改心等さまざまな事情を総合的に考慮して、客観的な立場から廃除に該当する事実の有無を審理し、廃除が相当か否かを決定することになります。
審判が確定すれば、廃除の対象となった推定相続人は相続資格を失います。
方法2.遺言書で相続人廃除をする(遺言廃除)
【相続廃除】の方法として、②遺言書で相続人の廃除を求める場合、遺言書に、推定相続人を廃除する意思を記載する必要があります。
そして、被相続人の死後、その遺言書を執行する者(「遺言執行者」といいます。)が、相続開始地を管轄する家庭裁判所に対して相続人の廃除を求めていくことになります。
被相続人からすると、遺言書に推定相続人の廃除を求める旨を記載するだけとなりますが、【相続廃除】が認められるためには、「遺言執行者」が家庭裁判所に相続人の廃除を申立て、その家庭裁判所の審理において相続人の廃除が認められる必要があります。
そのため、【相続廃除】が認められるように、遺言書で適切な「遺言執行者」を指定し、また、その「遺言執行者」が相続人の廃除事由の立証ができるように証拠を残しておくべきでしょう。
なお、「遺言執行者」については、以下の記事でも解説しておりますので、ご参照ください。
相続廃除が認められたら、戸籍の届出を行う
家庭裁判所において【相続廃除】が認められた後、その審判が確定した日から10日以内に、【相続廃除】が認められた旨を市区町村役場に届け出る必要があります。これは、生前廃除の場合であっても、遺言廃除で場合であっても同じです。
廃除されたことにより、相続資格が無くなったことを戸籍に反映させておかないと、実際に相続の処理をする場合に排除された推定相続人が相続手続に関与してしまう可能性があるためです。
届出先は、廃除とされた相続人の本籍地または被相続人の所在地を管轄する市区町村役場となります。
【相続廃除】の届出に当たっては、【相続廃除】が認められた審判の謄本を必要としますので、届出に当たっては、忘れずに提出しましょう。
相続廃除の取り消しもできる
これまで見てきたとおり、【相続廃除】は、被相続人の意思によって相続権を失わせるものです。
そのため、【相続廃除】が審判等で認められた後に、被相続人が考えを覆して、その「推定相続人」に相続させてもよいと考えた場合は、【相続廃除】の取消しを求めることができます。
ただし、【相続廃除】の取消しを求めることができるのは、当然ながら被相続人であって、排除された推定相続人ではありません。
また、【相続廃除】が、家庭裁判所での審判を必要としたように、取消しに当たっても家庭裁判所に取消しを求める必要がある点は注意しましょう。
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相続廃除の確認方法
これまで見てきたとおり、【相続廃除】の申立ては、家庭裁判所に対して行われます。
こういった家事事件の記録に関しては、当事者または利害関係を有する第三者であれば、閲覧・謄写(コピー)することができますので、家庭裁判所に対して、照会(問い合わせ)をすることで【相続廃除】の申立てがなされたか否かを確認することができます。
申立てがなされているかどうかが分からない場合でも家庭裁判所に確認をすることで、どうなっているかを確認することは可能です。
相続廃除は戸籍に記載される
なお、家庭裁判所への照会(問い合わせ)だけでなく、戸籍でも確認することはできます。
上記のとおり、【相続廃除】が認められた場合、市区町村役場に届け出て、【相続廃除】が認められた旨が戸籍に記載されることになります。
そのため、戸籍上でも、【相続廃除】が認められた否かを確認することができます。
相続廃除できるのは被相続人(財産を残す人)だけ
これまで見てきたとおり、【相続廃除】は、被相続人の意思によって相続権を失わせる制度です。
『相続欠格』と違い、被相続人の意思を必要とすることに特徴があることは説明したとおりです。
そのため、例えば、推定相続人の一人が、被相続人に対して、虐待等をしていたとしても、他の推定相続人が被相続人に代わって相続人の廃除を求めることなどはできません。あくまでも、被相続人の意思に基づく【相続廃除】ということが必要となります。
相続廃除は遺留分もなくなる
【相続廃除】された相続人は、相続権を失うと同時に『遺留分』も失います。
『遺留分』とは、民法で規定されている相続人(法定相続人)に保障されている最低限の相続分をいいます。
つまり、『遺留分』の相続権の一部であるため、【相続廃除】によって相続権を失うと、『遺留分』も失ってしまうのです。
かかる『遺留分』を失うと、【相続廃除】の場合には、遺留分を取り戻すための請求(遺留分侵害額請求)もできなくなります。
なお、『遺留分』については、以下の記事でも解説していますので、ご参照ください。
廃除された相続人の子供は相続可能である点に注意(代襲相続)
【相続廃除】されたとしても、その相続人の子供は、相続可能である点には注意しましょう。
これは、『代襲相続』が発生しているためであり、『代襲相続』とは、例えば、被相続人の子(相続人となるべき者)が被相続人より先に死亡していた場合、その子の子(被相続人の孫)が代襲して相続することになるというものです。
かかる『代襲相続』は、相続人が被相続人より先に死亡していた場合に発生するほか、【相続廃除】によって相続権を失った場合においても発生します。
相続廃除についてのお悩みは弁護士にご相談ください
これまでみてきたとおり、【相続廃除】は、被相続人と相続人との間の信頼関係を破壊するような背信的な行為などがある場合に認められるのですが、どのような行為があれば、「虐待」や「重大な侮辱」、「著しい非行」があったといえるかを容易に判断することはできません。
また、【相続廃除】が認められるためには、『相続欠格』と異なり、家庭裁判所に申立てを必要とするなどの裁判所への手続きを必要とします。
【相続廃除】を申し立てたいが、どうしたらいいか分からない場合だけでなく、【相続廃除】を申し立てられてどうしたらいいか分からない場合など、【相続廃除】にはあらゆる問題がつきまといます。
そこで、【相続廃除】に関連してお悩みの方は、相続問題、遺産分割問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士にぜひ一度ご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)