監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
相続が発生したとき、誰が故人(被相続人)の相続をするのでしょうか。
故人を相続する人を『相続人』といいます。
『相続人』が誰になるか等は民法で定められています。
ただし、実際の相続が起こった場面では、普段から連絡を取り合い、気心が知れている方だけが相続人ではなく、会ったこともない、不仲である、そもそも初めて存在を知ったというような人が、思いかけず『相続人』となっている場合があるので注意が必要です。
そこで、本記事では、相続において重要な、『法定相続人』にだれがなるのか等についての注意点や留意点について、相続問題、遺産分割問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が以下解説していきます。
目次
法定相続人とは
上記でも少し触れましたが、『相続人』が誰になるか等は民法で定められています。
故人(被相続人)の財産を引き継ぐ者として民法で定められた者を『法定相続人』といいます。
故人の配偶者と故人と一定の血縁関係がある者が『法定相続人』あたります(なお、具体的に誰が『法定相続人』に当たるのかは後述します。)。
相続の手続において、そもそも、誰が相続人にあたるのかが決まらなければ、相続を進めていくことはできません。そのため、誰が法定相続人なのかを調べる必要がありますが、こういった調査を『相続人調査』といいます。
『相続人調査』については、以下の記事でも詳しく解説していますので、ご参照ください。
法定相続人の範囲
上記1のとおり、『法定相続人』となり得る者は、故人の配偶者と故人と一定の血縁関係がある者です。
具体的に見ていくと、『法定相続人』の範囲に含まれるのは
・被相続人の配偶者(890条)
+
①被相続人の子供(及びその代襲者、再代襲者等)=第1順位
②被相続人の直系尊属(父母・祖父母等)=第2順位
③被相続人の兄弟姉妹(及びその代襲者)=第3順位です。
このように、配偶者は常に相続人となりますが、その他は①第1順位⇒②第2順位⇒③第3順位と順列の関係にあり、①がいないときに②、②がいないときに③と相続人となっていきます(887条~890条)。
配偶者は必ず相続人になる
上記2のとおり、故人(被相続人)が法律上結婚していた場合、故人の方の配偶者は、常に『法定相続人』となります。
他方で、婚姻届を出していないものの、事実上夫婦生活の実態を伴う社会生活を営んでいた方、いわゆる「内縁関係」にあった方は、故人の『法定相続人』にはならないことに注意が必要です。
また、離婚した元妻・元夫にも故人の『法定相続人』にはなりません。
これらの方は『法定相続人』ではないため、相続として受け取るものはゼロになるので注意が必要です。
仮に、内縁関係にあった方が、故人の死後に財産を残してもらいたい場合には、故人が生きているうちに遺言等で財産を残すように準備をしておく必要といえます。
子供がいる場合
故人に子供がいた場合、その子供は、上記2の①のとおり、いわゆる第1順位の『法定相続人』になります。
そのため、故人に子供がいる場合は、①子供が相続人となるため、第2順位の②両親、第3順位の③の兄弟姉妹は相続することができません。
なお、配偶者は、常に相続人であるため、配偶者がいた場合には、第1順位の①子供とともに相続することとなります。
この場合における、配偶者と子供の相続分は、それぞれ2分の1ずつです。
なお、子供が複数名いる場合、子供全員で全体の2分の1を相続することになるため、例えば、子供が2人いる場合は、配偶者が全体の2分の1を、子供は、おのおの全体の4分の1を相続します。
子供がいない場合
故人に子供がいない場合、上記2のとおり、第1順位の①子供がいないことになり、原則として、第2順位の②両親(直系尊属)が『法定相続人』になります。
ただし、子供がいないといっても、後述するとおり、故人の①子供が先に亡くなってしまったけれども、①´孫が生まれており、その孫が存命している場合は、①´孫についていわゆる「代襲相続」が発生し、孫が法定相続人になります。
この場合、②両親は法定相続人になりませんので、注意するようにしましょう。
子供がいるが離婚している場合の法定相続人は?
上記3でも少し触れましたが、離婚した元妻・元夫は故人の『法定相続人』にはなりません。
『法定相続人』にあたる「配偶者」というのは、故人の死亡時点において、法律上の夫婦だった者です。そのため、故人が死亡する前に離婚した元妻・元夫は『法定相続人』ではありません。
この場合の『法定相続人』は、上記3.1や3.2と同様に考え、故人の子供がいれば第1順位として①子供たちが、仮に①子供が先に亡くなってしまった場合などで①´孫等がいればその孫たちが(子の代襲者)、子供も孫等もいなければ第2順位の②父母等の直系尊属が、これらのいずれもいなければ第3順位の③兄弟姉妹らが相続人となります。
死別などで配偶者がいない場合の法定相続人は誰か
死別等により配偶者がいない場合は、上記4の配偶者と離婚した場合と同様で、『法定相続人』として配偶者がいないことになります。
そのため、上記4と同様に相続人を決めていくので、故人の子供がいれば①子供が、①子供が先に亡くなってしまった場合などで①´孫等がいればその孫たちが、子供も孫等もいなければ第2順位の②父母等の直系尊属が、これらのいずれもいなければ第3順位の③兄弟姉妹らが相続人となります。
独身の場合の法定相続人は誰か
故人に結婚歴がなく独身だった場合、通常は、配偶者の存在は考えなくてよいことになります。そのため、上記3や4と同じように考えていくことになります。
また、通常は、故人に第1順位の①子供もいないでしょうから、第2順位の②両親が『法定相続人』に、両親が既に亡くなっていた場合は、第3順位の③の兄弟姉妹が『法定相続人』になることになるでしょう。
もっとも、結婚歴がない方であっても、結婚せずに子供をもうけ、認知をしていたり、養子縁組をするなどして①子供が戸籍上存在している場合もあるので、第1順位の①子供がいないかをきちんと戸籍で確認しておきましょう。
兄弟・姉妹は法定相続人になるか
兄弟姉妹は、『法定相続人』になりうる立場にありますが、既に述べたとおり、第3順位の法定相続人です(887条以下)。
何度も触れてきたとおり、故人の第1順位の①子供、第2順位の②両親などがいない(先に死去している)場合や、①子供や②両親が存命でも全員が相続放棄等をした場合に限り、『法定相続人』になる立場といえます。
なお、故人の配偶者がいる場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹は4分の1の割合で財産を受けとることになります(900条4号)。
甥・姪は法定相続人になるか
甥・姪は、故人から見て、③兄弟姉妹の子の立場になります。
そのため、原則としては、甥、姪は法定相続人とはなりませんが、③兄弟姉妹が故人よりも先に死亡している場合、兄弟姉妹に代わって③´甥、姪が『法定相続人』となります(代襲相続)。
なお、さらに甥や姪も亡くなっている場合は、甥・姪の子供は『法定相続人』になりません。代襲相続人(甥や姪)を代襲することを、“再代襲”といいますが、兄弟姉妹については再代襲の規定が民法上存在しないためです(つまり、兄弟姉妹の孫は法定相続人になりません)。
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孫は法定相続人になるか
上記3.2でも少し触れたとおり、故人の①´孫は、①子供の代襲相続人として、第1順位の法定相続権を取得するケースがあります。
それは、故人に①子供がいたものの、その子供が先に死亡していた場合や、相続欠格、廃除によって子供が相続権を失った場合がこれにあたります(887条2項)。
他方で、故人の子供が存命で、例えば、相続放棄をした場合には代襲相続は起りませんので、孫は『法定相続人』にはなりません。
養子は法定相続人になるか
養子とは、養子縁組をした子供を指します。
養子縁組は、法律上の親子関係を形成する行為です。
そのため、血縁的な親子関係の場合と同様、養子も第1順位の①子供と同じことになり、故人の『法定相続人』となります。
したがって、上記6でも少し触れましたが、故人に実子がおらず、養子のみがいる場合でも、配偶者と①子供である養子が相続人となり、②両親、③兄弟姉妹は相続人とはなりません。
なお、実子と養子とがいる場合は、実子と養子には、同じ割合の法定相続分が与えられています。
相続には順位があり、全員が相続できるわけではない
これまで述べてきたとおり、『法定相続人』となり得るのは、代襲相続と再代襲相続を含めると、配偶者、①子供、①´孫、①´´ひ孫、②両親、③兄弟姉妹、③´甥、姪です。
ただ、これらの『法定相続人』のうち常に法定相続人となるのは配偶者だけで、それ以外については、法定相続人となる優先順位が定められており、①⇒②⇒③の順位で『法定相続人』となりますから、②両親や③兄弟姉妹は相続できない場合があることに注意しましょう。
法定相続人がいない場合 『法定相続人』がいない場合には、どのようになるのかも見ておきましょう。
民法では、「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする」と規定しています(951条)。
相続人がいない場合はもちろん、相続人の存否が不明の場合、相続人全員が相続放棄をした場合がこれにあたります。
そのため、『法定相続人』の範囲に該当する者がいない場合、その被相続人の遺産は法人となり、利害関係人等の申立てによる相続財産管理人の選任や、各種の公告、相続債権者に対する弁済等を経て清算されることになります(951条~958条の2)。
なお、これらの手続を経てもなお、残余財産が生じた場合、特別縁故者らの請求がある場合、家庭裁判所は残余財産の分与を検討し(958条の3)、それでもなお、残余財産のある場合、その財産は国庫に帰属します(959条)。
法定相続人についてお困りなら弁護士にご相談ください
これまで見てきたとおり、『法定相続人』の範囲は、誰が相続人になるかという観点から非常に重要な問題です。
『法定相続人』の順番等は本記事を見ていただければお分かりになるかもしれませんが、実際に相続の問題が起こった際に、『法定相続人』にあたる人が具体的に誰なのか、故人に子供はいないと思っていたが実は存在していた、兄弟姉妹は見知った人だけかと思っていたが、そうではなかったという事例が少なくないです。
遺産分割など相続に関する諸問題に取り組んでいくにあたって、相続人の範囲、特に『法定相続人』の確定は、全てのスタートになる部分ですから間違いがあってはいけないのですが、戸籍上、法定相続人を確定していく作業は容易ではありません。
そこで、相続人調査、法定相続人の確定については、相続問題、遺産分割問題にせ逸通↓弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士にぜひご相談ください。相続問題で培った経験できっとお力になれるかと思います。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)