限定承認とは|相続で限定承認を行うメリットとデメリット

相続問題

限定承認とは|相続で限定承認を行うメリットとデメリット

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

相続が発生した際に、遺産や債務を受け継ぐか(単純承認)、全て放棄するか(相続放棄)という選択肢の他に、【限定承認】という制度が存在しています。
ただし、この制度は利用するかどうかを含めて、正しい知識の下、適切に判断する必要があります。実際に、多用される制度ではなく、令和元年度の裁判所の統計をみても、相続放棄の新規申立件数が22万5415件であるのに対し、【限定承認】の新規申立件数は657件にとどまっているようであり、多くの事案で利用されるような制度ではありません(司法統計・令和元年度家事編参照)。
そこで、遺産を受け取るか受け取らないか、0か100かの2択ではなく、第3の選択肢として【限定承認】が何なのか、どのような注意点等があるかについて、相続問題、遺産分割問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が以下解説していきたいと思います。

限定承認とは

まず、【限定承認】が何を指すのかについて見ていきましょう。
【限定承認】とは、亡くなった故人(被相続人)が残した債務等を相続財産の限度で弁済する、ということを条件として相続する方法を指します。
つまり、プラスの財産も負債等のマイナスの財産もすべてを相続する『単純承認』、その反対にプラスの財産もマイナスの財産もすべてを放棄する『相続放棄』とは異なり、プラスの財産の限度でマイナスの財産を弁済し、プラス財産にあまりがでれば相続人が実際に遺産を手にしますが、プラス財産がマイナス財産の弁済で全てなくなってしまえば、手元には何も残りません。
ただし、相続人にとって、【限定承認】を利用するメリットがあるのは、ごく一部の例外的な事案に限られるものであることや、煩雑な手続や費用負担の問題があること等を十分理解しておく必要があります。

限定承認のメリット

【限定承認】におけるメリットとして挙げられるのは、プラスの遺産の中にどうしても買い取りたい物がある場合が挙げられます。
例えば、相続財産の内訳がマイナスの財産500万円(借金)とプラスの財産100万円(形見の高級指輪)のケースで【限定承認】を行う場合、プラスの財産の価値に相当する100万円を支払えば、指輪を相続することができます。プラスの財産を超過する400万円については、弁済する必要はありません。
以下、もう少し詳しく見ていきましょう。

負債を負うことがない

【限定承認】は、プラスの財産の限度でマイナスの財産を弁済するという条件付きの相続の方法ですので、あらかじめ、相続人が負うべきマイナスの財産が限定されているといえます。
そのため、仮にマイナスの財産がプラスの財産より多くなっている場合であっても、プラスの財産を超過する部分について、相続人が相続人自身の財産で弁済する必要はありません。

連帯保証人の地位は受け継ぐことに注意が必要

連帯保証人とは、金銭消費貸借契約などにおいて、主たる債務者の負った債務の弁済を求められた場合、主債務者と連帯して弁済する義務を負う者をいいます。
このような連帯保証人の地位は、相続の際に受け継がれることになりますので、例えば、被相続人の方が何かの債務を連帯保証していた場合、

民法896条において「相続人は、……被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」とされています(なお、同条の但し書きで被相続人でなければ生じないような専属的な権利義務は除かれています)。連帯保証人の義務は先に述べたように主債務者と連帯して弁済するというものですので、被相続人でなければ生じない義務ではありません。したがって被相続人が連帯保証人になっていた場合にはその地位を相続します。【限定承認】した場合、連帯保証人の地位は相続するのでプラスの財産の限度で弁済義務は生じますので注意してください。

特定の財産を残せる

【限定承認】においては、特定の財産を残せる場合があるために、利用を検討することがあります。
【限定承認】では、民法932条において、先買権(さきがいけん)という相続財産に対する優先権が認められています。相続人が特定の遺産を取得したい場合には、家庭裁判所に対して、鑑定人選任の申立てをし、選任された鑑定人行った当該財産の評価相当額を相続人が自身の固有財産から支払うことができれば、当該財産を優先して取得できるというものです。この先買権を利用することで、相続放棄して失ってしまうと相続人の生活にも影響が生じてしまう居住不動産や、ご家族にとって金銭的な価値以上の意味を有する財産など、大切な遺産を守ることが可能となります。

限定承認のデメリット

【限定承認】は、先買権の他には、相続人にとってほとんどメリットがないといえます。
さらには、【限定承認】の申立てやその後の手続が極めて煩雑ですし、専門家に依頼した場合の費用も相続放棄とは比べてかなり多く要するでしょう。また、税制上の問題、財産管理に関する限定承認者の責任等、【限定承認】は、相続人にとってデメリットのほうが大きいといえます。

相続人全員が限定承認する必要がある

まず、【限定承認】は、相続人全員が行う必要があります。
つまり、複数いる相続人の中に、限定承認に反対する相続人がいる場合、既に単純承認した相続人がいる場合などは、原則、限定承認はできないことになるので注意が必要です。

相続放棄した人がいる場合

これまでも述べてきたとおり、【限定承認】は、相続人全員が共同して行わなければなりません(923条)。
ただし、相続人の中に相続放棄をした者がいる場合、その者は「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったもの」とみなされますので(939条)、【限定承認】を行う場合、相続放棄をした相続人以外の全員で共同して行うことができます。

相続財産に手を付けることができない

【限定承認】を行う場合には、定められた手続きにより、取得したい相続財産について先買権行使して取得する必要があります。【限定承認】をしようとしても、このような法定の手続きが完了する前に相続財産を勝手に処分等してしまうと、単純承認したものとみなされます。
単純承認した場合には、無限定に相続債務を相続することとなりかねません。
【限定承認】の完了までには長期間かかることもありますが、その間は自己判断での財産の処分等はしないように注意しましょう。

税金がかかってしまう場合がある

【限定承認】を行った場合、相続税と譲渡所得税の2つの税金の対象になりますので注意が必要です。
プラスの財産とマイナスの財産を相続し、プラスの財産が残った場合には、相続税がかかる可能性があります。
また、【限定承認】をした場合、被相続人から相続人へ時価で財産を売却したとみなされるので、みなし譲渡所得税も課税されます。
さらに、譲渡所得税が発生することに伴い、相続人が被相続人の確定申告代って行う必要があります(準確定申告)。
そして、これらの納税については、相続人は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告をし、納税をしなければなりません。

申請までに手間や時間が掛かる

【限定承認】の手続では、被相続人に対する債権者への公告・催告(927条)や弁済(929条)等を行いますが、公告期間内に申出をしなかった債権者も、残余財産(残った遺産)の範囲では権利を行使することができます(935条)。
限定承認者は、財産を管理する責任を負いますし(926条)、【限定承認】をした後も、相続財産の私的な消費については単純承認とみなされる危険を負っています(921条3項)。つまり、【限定承認】をした場合、仮にプラスの遺産が余ったとしても、直ちにこれを使うのはリスクが伴うので注意が必要です。
【限定承認】については、申請までに手間や時間がかかりますので、こういった点からも注意が必要です。

受理された後も、更に手続きがある

これまで述べてきましたが、【限定承認】の手続きは、先買権など相続財産についての「一部清算」という側面があり、特段の手続きが必要のない単純承認や比較的簡単な手続きで終わる相続放棄に比べ、手続きは複雑であるといえ、時間もかかります。また、相続放棄の場合と大きく違うのは、財産目録の作成・提出が申立ての要件とされているなどの特徴もあります(924条)。
そのため、【限定承認】を行うまでの準備も、他の手続きと比べて負担が重いといえます。また、そもそも【限定承認】は相続人全員で行う必要があるため、相続人全員の意思が確認されるまでに時間がかかることにも注意が必要です。

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限定承認の手続き方法

【限定承認】は、家庭裁判所に対して限定承認する旨の申述を行うことで開始し、その後、公告手続きを経て、財産の換価処分・弁済の清算手続等を行うことになります。
以下、詳しく見ていきましょう。

限定承認に必要な書類

まず、【限定承認】の申述をするために必要な書類を確認しましょう。
基本的には、以下の書類が必要になります。

  • 限定承認の申述書
  • 財産目録
  • 被相続人の出生から死亡までの除籍や戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票又は戸籍附票
  • 財産目録記載の財産に関する証拠書類
  • その他、家庭裁判所に提出を求められる書類

上記したとおり、財産目録が必要とされているなど相続放棄とは異なることがご理解いただけるものと思います。

限定承認の手続きの流れ

【限定承認】を行う場合、まず、限定承認したい相続人らは、相続があったことを知ってから3か月以内に、被相続人の最後に住所地を管轄する家庭裁判所に対して、上記4.1の申述書等の書類を提出する必要があります。
家庭裁判所で【限定承認】の申述が受理されると、公告や換価等の手続きが行われ、最終的に相続債権者等への弁済が行われることとなります。

費用

【限定承認】の申述を行うにあたっては、裁判所に納める手数料(1人当たり800円)と予納郵券(裁判所によって異なるので申立先の裁判所にご確認ください)が必要となります。
このほかにも、公告費用や、財産の換価の際に鑑定人費用や各種手数料、戸籍の取得等の実費も別途必要となってきます。

限定承認の期限は3ヶ月

これまで見てきたように、【限定承認】は、相続開始を知った時から3か月以内にしなければなりません。
相続開始を知った時から3か月以内には限定承認をすべきかどうか判断がつかない場合、必要な調査が終わらない場合には、この3か月の期間を伸長する手続きをとる必要も出てきます。
なお、3か月の期間について伸長する手続きをとることなく、3か月の期間が徒過してしまった場合、原則として限定承認を行うことはできません。

限定承認についてご不明な点はぜひご相談下さい

【限定承認】は、遺産調査、限定承認の申立て、申立ての受理、官報公告等、その手続きを自身で行うことは危険が大きすぎますし、何より期間制限があることに注意しましょう。
他方で、専門家に依頼した場合、相続放棄よりも多くの費用がかかりますし、官報への公告費用等も負担しなければなりません。使いやすい制度とはいえませんし、デメリットも多いですが、これらを踏まえても、【限定承認】を利用するメリットがある場合もあります。
【限定承認】には、3ヶ月という期間制限がありますし、本当に【限定承認】を用いるべきかという点の相談はもちろんのこと、その判断の前提となる遺産調査等も含めて、早期段階で弁護士等の専門家に相談されることを強くお勧めいたします。
弁護士法人ALG神戸法律事務所の弁護士は、相続問題、遺産分割問題について精通しておりますので、いち早く相談していただくことをお勧めします。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。