消極損害
監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 所長 弁護士
- 損害
医療過誤の被害に遭った場合、その損害額はいくらになるでしょうか。
人身損害に関する損害額を算定する場合は、治療費、慰謝料等の損害項目ごとに損害額を算出し、全体の損害額を算出します。
本稿では、損害項目の中でも「消極損害」に該当するものについて説明します。(積極損害、精神的損害(慰謝料)に関しては、別のページをご参照下さい。)
積極損害 慰謝料損害項目について
まず、人身損害の中身は、以下の図のように類型化されます。
人身損害は、まず「財産的損害」と「精神的損害」に分類されます。
「財産的損害」とは、医療過誤が生じたことによって喪失した財産や得られなくなった財産に関する損害をいい、領収書や源泉徴収票等から計算して求める損害をいいます。
それに対し、「精神的損害」とは、主に慰謝料をいい、金銭的な評価が困難な損害を指します。慰謝料は、金銭的な価値に置き換えることは困難ですが、実際には一定の基準に照らして算出されることになります。
そして、「財産的損害」の中でも医療過誤によって支払わなければならなくなった金銭損害を「積極損害」といい、医療過誤によって本来得られたであろう利益について得られなくなった金銭損害を「消極損害」といいます。
積極損害
- ・治療費
- ・通院交通費等
- ・付添費用
- ・装具、器具購入費
- ・介護費用
- ・家屋、自動車改造費
- ・雑費
- ・葬儀費用 等
消極損害
- ・休業損害
- ・逸失利益(本来得られていた収入等)等
消極損害の算定方法について
(1)休業損害
入院や治療により、仕事を休職した分の損害(本来得られたであろう分の給与等)が損害として認められます。なお、有給休暇を利用した場合でも損害に含まれます。
給与所得者の方は、会社に休業損害証明書の発行をしてもらい、損害額を算出することが一般的です。
事業所得者の方は、確定申告書等から休業期間に応じて損害額を算出します。なお、事業の維持・存続のために支出した休業期間中の固定費については、支出することが必要やむをえないものについて損害として認められます。
(2)逸失利益
逸失利益とは、死亡や後遺障害により本来得られたであろう収入等が得られなくなった分の損害をいいます。
過誤が生じる前の収入を前提として、労働能力喪失率、労働能力喪失期間(原則67歳まで)により算出します。そのため、源泉徴収票や確定申告書等、収入が分かる資料を準備していただく必要があります。
専業主婦の場合には、学歴計・女性全年齢平均賃金を基礎とします。なお、令和元年度の学歴計・女性全年齢平均賃金は388万0100円となっています。
幼児、学生については、年齢、性別、大学への進学への蓋然性等を考慮し、適正な平均賃金を基礎として算出します。
高齢者は、就労の蓋然性の有無等を考慮し、逸失利益の算定を行います。なお、年金については、裁判例上、国民年金(老齢年金)、老齢厚生年金、地方公務員や国家公務員の退職年金給付等が逸失利益として認められています。
医療過誤事案における損害算定の特殊性
医療過誤では、既に患者が重大な疾患に罹患していたり、何らかの既往症を有しているケースが多く、適切な治療を行った場合でも本来どの程度生存できていたか、どの程度の労働能力を有していたかを判断することが困難です。
例えば、精神病や重度障害者が医療過誤に遭った場合、これを既存障害としてとらえ、逸失利益等が損害賠償額から差し引かれるケースも見受けられます。そのため、医療過誤の損害額算定については、事案の特性をとらえ、詳細を個別具体的に検討する必要があります。
最後に
消極損害については、損害額の中でも大きな割合を占めることになるケースが少なくありません。そのため、適正な額を算定する必要があります。
病院側から示談額の提示があった場合でも、その額が適正な額であるのか、一度弁護士に相談することをお勧めします。
この記事の執筆弁護士
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保有資格所長 弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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