養育費が未払いになった場合の対処法

離婚問題

養育費が未払いになった場合の対処法

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

離婚時に決めた「養育費」が滞ることなくきちんと支払われているケースは、そう多くないのが実状です。しかし、「養育費」は大切な子供を守り育てていくために欠かせないものですから、子供のためを思えばなおのこと、未払いとなっている状況を“どうしようもない”、“仕方がない”などと、簡単に飲み込んでしまってはなりません。

とはいえ、離婚後に相手方に対してどのように支払いを求めていけばよいのかわからず、途方に暮れている方もいらっしゃることでしょう。まずは、「養育費」の未払い問題を解決するためにはどんな方法が考えられるのか、養育費の問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が以下解説していきます。

調停・審判・裁判で決められた養育費が不払いになった場合

離婚調停や養育費請求審判等、裁判所で行われた手続の中で決定した養育費が支払われていない場合、次のような手続を経て養育費の回収をしていくことが考えられます。

手続①.履行勧告

履行勧告は、調停や審判等で決定した養育費が支払われない場合に、取り決めどおり養育費を支払うよう、家庭裁判所から相手方に促してもらえる制度です。裁判所を通じた手続であるため、相手方に対して心理的な圧力を加えることができます。

養育費を取り決める手続を行った家庭裁判所に対し、口頭(電話も可)や書面で履行勧告の申出をします。手数料はかかりません。
また、申出の際に必ず提出すべき書類はありませんが、家庭裁判所は勧告を行う前に、申出のとおり養育費の不払いが生じているかどうか、どのような理由で不払いとなっているかといった状況を調査しますから、調停調書、審判書等の写しや、預貯金通帳の写しなど、取り決めた内容や不払いの証拠を示す資料を提出すると進行がスムーズです。
調査の結果、合理的な理由なく不払いが発生していることが確認できたら、基本的には書面による履行勧告がされます。

ただし、履行勧告には支払を強制する力がないため、不払いが継続したとしても、2度目の勧告の支払期限を迎えた時点で手続は終了します。

手続②.履行命令

履行命令は、履行勧告によっても養育費が支払われない場合に、家庭裁判所が相手方に支払いを命じてくれる制度です。

手続の流れは履行勧告とほぼ同じです。養育費の不払いについて相手方の主張に合理性がなければ、相当と思われる支払期限を設定したうえで、書面による履行命令がなされますが、やはり強制力は伴いません。

500円の手数料や数千円の郵券代がかかること、そして、この命令に相手方が従わないとき、相手方に10万円以下の過料の支払いが科せられることが履行勧告との大きな違いですが、過料は国に支払われるものであり、養育費の支払いに充当されるわけではありません。相手方の経済的な事情で不払いが生じている場合には、かえってひっ迫させる事態になりかねないため、履行命令の手続を行うかどうかの判断は慎重に検討すべきでしょう。

手続③.強制執行

強制執行は、相手方の給与や預貯金などを差し押さえて、養育費を強制的に回収できる制度、つまり、履行勧告や履行命令による自主的な支払いに応じなかった相手方に対する強硬手段です。

申立て先は家庭裁判所ではなく地方裁判所(※相手方居住地の管轄)で、子供1人につき4000円の手数料がかかるほか、3000円前後(※裁判所によって異なる)の予納郵券代等の費用がかかります。

強制執行を行うためには、相手方の財産の特定が前提となります。特に、相手方が会社員で給料が支払われている場合、その給与を差押えできれば、不払いとなっている養育費に加え、まだ支払日が到達していない、将来回収する予定の養育費の分まで強制的に差し押さえられる点が、先の2つの手続との大きな違いになります。

民事執行法の改正で未払い養育費に対応しやすくなりました

これまで、強制執行の申立てにあたっては、債権者自身で相手方の勤め先や預貯金口座等を特定する必要がありましたが、離婚後に相手方の生活環境がガラリと変わり、また、疎遠になることで財産の特定が難航するケースも珍しくありませんでした。

しかし、令和2年4月の民事執行法の改正により、情報開示制度の拡充が図られました。

改正後は、「第三者からの情報取得手続き」を利用すれば、裁判所から各機関に対して必要な情報の開示を要求できるようになりました。例えば、勤め先については市町村および年金事務所へ、預貯金については銀行等の金融機関へ、不動産については登記所へ照会をかけ、情報を取得することが可能です。

また、「財産開示手続き」において相手方が情報の開示に応じない場合のペナルティも、前科がつかない金銭罰(30万円以下の過料)から、前科がつく刑事罰(6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金)に見直されました。

これらによって、相手方の財産が特定できる可能性が高くなり、従来よりも財産の差し押さえが容易にできるようになりました。

口約束で決めた養育費が突然支払われなくなった場合

口約束で決めた養育費が突然支払われなくなった場合、上記1のように裁判所の手続で養育費の額等を決めたわけではないため、強制執行等の手続はできません。そのため、不払いが起こった際には、まずは任意で支払ってもらえるかどうか試みるところから順に段階を踏んでいきます。

まず、相手に連絡を取る

これまで遅滞なく支払われていたのに、今回だけ急に支払われなかったといったような場合には、うっかり支払期日を忘れているだけかもしれません。まずは、相手方に支払いの意思があるかどうかを確認するために、メールやLINE、電話、手紙など、普段から連絡をとりやすい方法で、催促の連絡をしてみましょう。

この方法で支払いがなされたら、それに越したことはありません。はじめから裁判所等の法的な手続を利用して催促をすると、相手方が感情的になってしまい、今後の支払いに影響するおそれがあるため注意が必要です。

内容証明郵便を出すのも1つの手

メールやLINE等での連絡に反応がなければ、内容証明郵便で、これ以上支払いが滞るようであれば法的手段も辞さないなどと、プレッシャーをかけてみるのも良いでしょう。

内容証明郵便は、一定の文字数規定に則って、一字一句違わない内容の手紙を合計3部(相手方送付用、差出人・郵便局保管用)作成し、封筒や郵便料金とともに郵便局の窓口に提出することで送付することができます。

いつ、どんな内容の文章を、誰が誰に宛てて送付したのか郵便局が証明してくれるもので、配達証明とセットにすれば、手紙の到達日も記録に残ります。もしも裁判等に発展した場合には、養育費の催促を行った事実を示す有力な証拠となります。

交渉・調停で養育費を請求する

相手方が上記3.1のメールやLINE、上記3.2の内容証明郵便等での請求に応じない場合には、そもそも話し合いの場を持つなどして養育費を任意に支払ってもらうことが難しいといえます。

その場合、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てます。調停では、直接相手方と話し合うのではなく、調停委員を介して話し合いを進めていきます。裁判所からの呼び出しであれば、相手方が話し合いに応じる可能性が高まりますが、これにも応じない、あるいは話し合いに決着がつかないときには、家庭裁判所が支払い金額等について最終的な判断(=審判)をします。

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養育費の未払い分はどこまで遡って請求できる?

過去の未払い分を請求する際に注意すべきことは、“消滅時効”です。
養育費に関する消滅時効は、どのような方法で取り決めをしたかによって異なります。父母間の協議や、公正証書で取り決めた場合には5年、調停や審判等、裁判所の手続で取り決めた場合には10年が消滅時効です。
もちろん、消滅時効は援用されなければ効果は生じないため、時効前の分の請求してよいのですが、時効が援用された場合には請求できるのは、時効にかかる前までの分となります。

他方で、養育費について特に取り決めていなかった場合には、養育費を請求する旨の内容証明郵便が送達された日や、養育費請求調停を申し立てた日等、養育費を請求する意思表示をした日を基準に、基準日以降に生じる分について認められるのが原則です。したがって、基準日より前の分を遡って請求することは難しいといえます。

養育費未払いの理由が環境の変化によるものだった場合

例えば、相手方が再婚し、さらに子供ができた場合、相手方には扶養しなければならない家族が増えることになります。また、病気や怪我のために休業、失業を余儀なくされている場合、養育費を取り決めた時よりも大幅に収入が減少していることが考えられます。

このような事情があることによって直ちに相手方の養育費の支払義務がなくなるわけではありませんが、養育費は一般的に、子供の人数や父母の年収などを基準に算定するため、養育費を取り決めた時点では予想ができなかった“環境の変化”が起きた場合には、養育費が減額されたり、支払ってもらえなくなったりすることが考えられます。

ただし、養育費の減額や免除は、協議や養育費減額請求調停等による当事者の合意があるとき、または養育費減額請求審判で請求が認められたときに限り有効であるべきと解されます。これらに基づかない未払い分の養育費について、以前の取り決め通り支払われるのかどうかはケースバイケースですが、相手方の資力によっては、現実的には回収が難しいこともあるでしょう。

未払い養育費にお困りなら弁護士にお任せください

「養育費」の未払いが生じる“事情”は、親子の数だけあります。未払いだけでなく、今後の不払いの不安などを解消するためには、当事者それぞれが抱える“事情”に適した方法で、効果的に請求していく必要があります。
しかし、相手方と再び対峙することや、慣れない法的手続をご自身で進めることに、不安や戸惑いを覚える方もいらっしゃるでしょう。

そんなときは、「養育費」の請求に詳しい弁護士を味方につけるということも、一つの選択肢としてご検討ください。

大切な子供を守ってあげられるのは、誰よりも近くにいるあなただけです。子供のために何かできることがないかと迷っていらっしゃる方は、勇気をもって一歩踏み出してみませんか?弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、養育費に関するトラブルも数多く解決に導いており、ご相談者様のお悩みについて、より良い解決に導けるよう尽力いたします。

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。