監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
離婚前・離婚後にかかわらず、子供を育てるのは親の務めです。そこで必要になってくるのが養育費ですが、この取り決めは当事者同士だとうまくまとまらず、取り決めたとしても守られず、支払いがなされていないことも多いのが実情です。
そんなときに利用できるのが、「養育費調停」です。話し合いの場を家庭裁判所に移して、第三者を交えて進行しますので、揉めがちな養育費について合意を目指すことができます。調停を行うことによって約束を破られた際の法的手続きを利用できるようにもなりますので、お困りの方はぜひ検討すべき手段かと思います。
ここでは、「養育費調停」に関する概要や流れ、調停を有利に進めるためのポイントなどについて、離婚問題、養育費問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が以下解説していきますので、順を追って一緒に確認していきましょう。
目次
養育費調停でできること
養育費調停でできることとしては、以下の3つがあげられます。
- 養育費の請求
- 養育費の増額
- 養育費の減額
いずれも“希望する側”が申し立てることになります。
両親は、たとえ離婚して離れて暮らすことになったとしても、お互いの子供が健やかな成長をとげられるように双方の経済力に見合った養育費を負担し合わなければなりません。これは法律で決まっていることですので、変えようがない義務といえます。
では、以降で細かくみていきましょう。
養育費の請求
まずは、「養育費請求調停」です。
養育費の支払いを求める・細かな条件を取り決めるといった、「養育費を請求するための調停」です。
本申立てを検討する背景には、相手(特に支払い義務を負う側)が話し合いに応じない、DVやモラハラを恐れるがあまり話を切り出せない、金額や期間などの条件で折り合いがつかず話し合いが平行線のままである、などの状況が想定されます。
主な取り決め内容は、養育費を支払うか、支払うとすれば子供が何歳の時までか、支払金額、支払方法などです。調停委員会が間を取り持って話し合いを進められるうえに、基本的に相手方とは別々に呼び出され別室にて行われますので、相手方と顔を合わせる心配がありません。
なお、離婚前(別居中など)の生活費については、養育費ではなく、“婚姻費用”として請求する必要がありますので、「婚姻費用請求調停」を申し立て、その中で額などを取り決めていくことになります。
養育費の増額
続いて、「養育費増額請求調停」です。
すでに支払いの取り決めがなされている養育費の増額を求める調停となります。
失業してしまった、自分や子供が重い病気にかかり医療費がかかる、私立学校への進学で取り決め当初より教育費がかかるなど、“受け取る側の事情”に変化があったときに申立てがなされます。
また、昇給・昇格した、転職して給料が大幅に上がったなど、“支払う側の事情”の変化により受け取る側が増額を求めるケースもあります。
養育費の減額
最後に、「養育費減額請求調停」です。
双方の事情の変化により、“支払う側”が申立てを行います。
申し立てがなされる事情としては、例えば以下のようなケースが考えられます。
- (支払う側が)失業した
- (支払う側が)重い病気、精神病にかかった
- (支払う側が)再婚し扶養が増えた、再婚相手の連れ子と養子縁組をした、再婚相手との間に子供が生まれた
- (受け取る側が)定職についた
- (受け取る側が)再婚し、再婚相手と子供が養子縁組をした
養育費調停の申立てに必要な書類
養育費調停の申立てに必要な書類は、以下のとおりです。
以下に加えて、必要に応じて追加書類の提出を促される場合もあります。
- 申立書とそのコピー…各1通
※申立書は裁判所のウェブサイトからダウンロード可能です。必要に応じて、事情説明書、連絡先等の届出書、進行に関する照会回答書、非開示の希望に関する申出書についても併せてダウンロード・添付することができます。
※コピーは相手方に送付されますので、記載内容にはご注意ください。 - 子供の戸籍謄本(全部事項証明書)…1通
- 申立人の収入がわかる資料(源泉徴収票、給与明細、確定申告書、非課税証明書などのコピー)
養育費調停にかかる費用
養育費調停の申立てにかかる費用は、以下のとおりです。
対象となる子供の人数によって変わります。
- 収入印紙…1200円分(子供1人につき)
- 連絡用の郵便切手…約1000円
※管轄の裁判所によって、金額や指定枚数などが異なります。事前に確認しておきましょう。
なお、調停に行く際は、交通費や予備費などの用意も忘れないようにしましょう。
調停の流れ
ここからは、養育費調停のおおまかな流れを紹介します。
実際にどのように行われるのか、イメージしながらみていきましょう。
家庭裁判所へ調停を申し立てる
養育費を請求したい、増額・減額を求めたい側が、申立ての手続きを行います。
調停の申立ては、必要書類や費用を用意して、申立先の家庭裁判所に持参または郵送することで実行できます。
「どこに申し立てるか」ですが、基本的に相手方の住所地を管轄とする家庭裁判所となります。もし事前に2人の間で合意があれば、合意先の家庭裁判所でも構いません。
だいたい申立てから2~4週間程度で申立先の家庭裁判所から“呼出状”が双方に届きますので、相手方はこれが届いて初めて調停が申し立てられた事実を知ることも多いです。
第1回目の調停期日は、申立てからおおむね1~2ヶ月後に設けられますが、個別の事情や裁判所の都合などにより、期間には多少の開きがあります。
第1回目養育費調停に出席
第1回目の養育費調停に出席するため、呼出状に記載してあった日時に家庭裁判所に向かいます。ぜひ、時間には余裕をもっておきましょう。
調停自体は、裁判官1名と調停委員2名(男女1名ずつのケースが多い)からなる調停委員会の進行により行われます。ただし、裁判官は基本的に立ち会わず、調停委員2名が進行役を務め、自分と相手方とが交互に別室に呼び出されて、事情や要望などを調停委員に伝えます。質問がなされたり、相手の言い分を伝えられたり、説得されたりすることもあります。イメージとしては、調停委員会が二人の間を取り持って折り合いを見つけつつ合意を目指すような“話し合い”です。
所要時間の目安としては2時間程度です。
初回で合意に至らなければ、次回期日の調整がなされて終了となります。
第2回目以降の調停
合意に至らなければ次回の期日が予定されますので、2回目、3回目……と回を重ねることになります。
次回の期日も1~2ヶ月後に設けられることが多いため、回を重ねるだけ期間もかかります。
平均的には、3~5回で終了となることが多いですが、特に「不成立」の判断は各々の案件によって異なってきますので、一概にコレという回数・期間の提示がむずかしいのが実情です。
調停の成立
調停を進めてお互いが合意に至れば、養育費の金額や支払方法といった合意内容を記した調停調書が作成され「調停成立」となり、養育費調停は終了となります。
調停委員会が間に入ってもなお合意できそうもなく、調停委員会が判断した場合には、「調停不成立」となり、審判手続きに自動移行します。
また、調停を申し立てた側は、相手の同意なくどのタイミングでも取り下げることができます。この場合、「調停取下げ」として調停終了となります。
不成立になった時はどうなる?
調停が不成立になると、何ら手続きすることなく自動的に審判手続きに移ります。
審判では、裁判官が“一切の事情”を考慮して判断を下します。考慮される“一切の事情”とは、例えば、調停でのやりとりの内容や、提出されている資料(特に収入額の資料)、調停委員の見解、子供の年齢や子供に要する生活費、その他個別具体的なことです。
なお、審判内容に不服があれば審判が下されてから2週間以内に即時抗告の申立てをすることができます。この場合、高等裁判所にて審理されることになります。
不服申立てもなく審判が確定されれば、審判書が作成され終了となります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費調停を有利に進めるポイント
養育費の請求や、増額・減額を求める調停では、いかに有利に進められるかがポイントとなってきます。
いくつか重要なポイントを紹介しますので、ぜひ押さえたうえで調停にのぞみましょう。
養育費の相場
養育費の相場を知っておくのは、双方にとって重要なポイントとなります。
成立後の生活をイメージすることもできますし、相手も納得しやすくなるでしょう。根拠もなく、相場とあまりにもかけ離れた金額を求めても認められる可能性は低く、ひいては裁判所の心証を悪くするおそれがありますので注意しましょう。
相場を知るには、裁判所も参考にしている「養育費算定表」を用います。下表がそれにあたりますが、裁判所のウェブサイトにも掲載されていますので、ぜひ検索してみてください。
例えば、【子供一人を養育する側(権利者)の年収が150万円、相手側(義務者)の年収が500万円】のケースの養育費の相場をみてみると、
- 子供が14歳以下の場合…4~6万円
- 子供が15歳以上の場合…6~8万円
となることがわかります。このような相場をもとに、考慮してほしい個別の事情を訴えながら調停での話し合いを進めていくことをおすすめします。
調停委員を味方につける
調停委員を自分の味方につけるのも重要ポイントのひとつです。
調停委員は、双方の間に入り、お互いの事情を聴きつつすり合わせを行い、解決策を提案したりするいわば“仲介役”のようなポジションにあたります。とはいえ、審判手続きに移る際には調停委員の意見も参考にされるなど、結果を左右しかねない重要人物であることに違いはありません。
どんなに専門知識が深かろうと、裁判所の関係者であろうと、調停委員はあくまでも人間ですから、「情に訴える」ことも有利な結果を得るために必要です。具体的には、根拠を持った主張をしつつ、理路整然としたコミュニケーションを心がけます。感情的になったり、支離滅裂でいい加減な主張をしたりするようでは、「情に訴える」ことにつながりませんので、くれぐれも注意しましょう。
養育費の請求が正当であることの証明
誰がみても「この請求内容は正当である」という旨を、具体的な根拠をもって証明することも有利に進めるポイントとなります。
養育費の請求や増額を求めるのであれば、なぜ増額が必要なのか、養育費がなかったり少なかったりして生活が苦しい事実を証明する必要があります。例えば、双方の経済事情がわかる給与明細や源泉徴収票を提出したり、子供にかかる学費や医療費、家計簿などを提示したりするなどです。
養育費の減額を求める場合も同様で、なぜ減額が必要なのか、養育費を支払っているために生活に困窮している事実を証明する資料を用意します。例えば、失業前後の収入差がわかる給与明細や、自身の病気の治療費などがあげられるでしょう。
審判を申し立てることを検討しておく
養育費の請求をめぐっては、はじめから審判手続きを行うことを検討しておくのも一つの手です。
通常、審判や裁判前には調停手続きを踏まなければならないとされているところ、養育費の請求については免除されています。
そのため、相手が調停に出席する可能性がない、合意することはあり得ないなど、「調停を申し立てること自体無駄足となってしまう」場合には、はじめから審判の申立てを行うことができます。審判手続きは一度で終了となることもあり、調停にかかる費用や期間、労力などが省けますので検討する余地はあるでしょう。
ただし、相応の証拠書類の準備などが必要となりますので、相手の経済事情を証明する資料や追加資料の用意など、抜け目なく対応するのが大切です。
弁護士に依頼する
離婚問題の経験豊富な弁護士に依頼するのも、事を有利に進める重要なポイントとなります。
何を用意すればいいのか、どうやって用意するのか、そろえた証拠資料を根拠にした適切な主張はどうしたらいいかなど、正直「わからない」という方が大半でしょう。そんなとき、離婚事件を数多くこなしている弁護士であれば、証拠資料の収集の仕方からアドバイスができますし、調停や審判に“代理人”として出席して代わりに適切な主張をすることもできます。
また、調停委員の立場になってみてください。証拠もままならず、あやふやな主張をする人よりも、弁護士を立ててきちんと調停や審判に臨む人のほうが、本気度が伝わってきませんか?そういった心証を与えるのも有利に進めるコツといえます。
よくある質問
養育費調停に相手が来ない場合はどうなりますか?
相手が初回の調停期日に来ない場合は、こちらの意向や事情などを伝えるのみで次回調停期日の日程調整を行って終了となります。しかし、その後の調停も相手が欠席続きであれば、話し合いようがないため調停不成立となり、審判手続きに自動移行し、裁判所が判断する流れは通常と変わりません。
調停の期日は、裁判所が開いている日時に設けられますので、基本的に平日昼間に指定されます。
そのため、特に初回期日については、相手も都合をつけられず欠席することも考えられるでしょう。しかし、その後も欠席が続いたり、連絡もなしに来なかったりする場合には、調停は不成立となります。よって、こちら側の主張やその他の事情を考慮しつつ、裁判所が審判を下すことになります。
養育費調停で決められた金額を払わない場合はなにか罰則などはありますか?
「履行勧告」や「履行命令」、「強制執行」といった罰則があります。
調停が成立した際に作成される“調停調書”は、その内容に記載されている約束事を破った際に、約束を守るよう勧告・命令・強制できる法的効力を有しています。
約束を守らせるための手段として、、裁判所から支払いを促す履行勧告や履行命令があります。履行命令をも無視するようであれば、10万円以下の罰金が科せられる可能性もあります。また、強制執行により、給料をはじめとする預貯金や不動産といった相手の財産を差し押さえて養育費を支払わせるといった強制的な方法もあります。
いずれも支払われない側がアクションを起こすことでなされる罰則です。相手からの支払いが滞っている場合には各手続きを検討し、相手への支払いをストップしている場合には、滞納分が積み重なるだけなので強制執行される前に支払いに窮しているならば養育費減額を求める調停を申し立てるなどすることをおすすめします。
養育費の調停について弁護士にご相談ください
養育費の調停は、必要書類を用意して申立てを行い、指定期日に裁判所に行って自分の主張をするというだけの単純なものではありません。各段階で「有利に進めるためのコツ」があり、これを怠るとせっかくの申立ても望みどおりの結果が得られなくなってしまうおそれもあります。とはいえ、「どうすればいいのか」「何から始めればいいのか」など、戸惑う方も多いのではないでしょうか。
まず手始めに、弁護士に相談してみてください。弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、離婚問題を多数扱っており、養育費に関する事案もさまざまなご相談を承り、実際に依頼を受けて解決してきました。ご相談者さまの意向や事情を汲み取りながら、法的観点からみても適切な養育費を正当に受け取れるよう調停手続きを進めることが可能です。何より、「プロに任せられる」といった安心感は、代えがたいものといえるでしょう。
ひとまず弁護士に相談してみて、それから依頼するかどうかを決めればいいのです。まずは弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士に問い合わせをしてみるという第一歩を踏み出してみませんか?
-
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)