監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
【協議離婚】とは、夫婦間の話し合いで成立する離婚のことです。
離婚を考えるきっかけはさまざまで、離婚したい側やしたくない側の言い分も多様です。こうしたなかで、お互いの条件などを主張し合い、合意できる着地点に行き着いたら“協議離婚成立”となります。
当事者で基本的に話を進める協議離婚は、手軽で楽そうに思えるでしょう。
しかし、きちんとポイントを押さえておかないと、不利な条件で合意してしまったなど、あとになって後悔する事態となりかねません。
ここでは、【協議離婚】をテーマに、離婚問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が具体的な進め方や進める際の注意点などについて解説していきますので、ぜひ参考になさってください。
目次
協議離婚の進め方や流れ
まず、【協議離婚】の具体的な進め方や流れについて把握していきましょう。
おおまかな流れは以下のとおりです。
①相手に離婚を切り出す
②具体的な離婚条件について話し合う
③離婚協議書(場合によっては公正証書)の作成
④離婚届を役所に提出する
相手に離婚を切り出す
離婚の話し合いを進めるには、まず、「離婚したい」という意思を相手に伝えなければなりません。このアクションをもって、離婚の協議が進んでいくことになるでしょう。
しかし、相手にとってみれば、思いもよらぬ申し出の場合も多いです。受け入れられなかったり、感情的になったりすることも考えられますので、離婚を切り出す際にはしっかりとした事前準備をしておきましょう。
また、協議の中で身の危険を感じる事態が起こりうるため、以下にあげる準備をしておくと安心です。
- 実家や友人の家など、緊急の事態に備えて安全を確保できる場所を家の外に確保しておく
- 子供がいる場合は、あらかじめ預けておく
- 逃げることを想定した荷造りをしておく
- 実際話し合う周囲には、危険物を含む物を置かないようにしておく
具体的な離婚条件について話し合う
離婚に合意したら協議離婚の際に話し合うべきこと
慰謝料
相手に不貞行為やDVといった有責性がある場合には、慰謝料を請求できる可能性があります。内容にもよりますが、一般的な慰謝料相場は100万~300万円程度です。ただし、協議離婚はお互いの話し合いによって如何様にも金額を調整することができます。
なお、有責性がない場合には、基本的に慰謝料は認められませんが、二人の間で合意できれば、二人の間の条件として設けることも可能です。
財産分与
婚姻中に協力し合って築いた財産は、離婚時に半分ずつ分け合うことができます。これを財産分与といい、分け合う割合は基本的に2分の1ずつです。
しかし、協議離婚の場合は、この財産分与の割合についても、お互いに納得できれば調整可能となります。
年金分割
婚姻関係にある間収めていた厚生年金(共済年金)についても、離婚の際に相当期間分を計算し、分け合うこととなります。これを年金分割といいます。
年金分割の按分割合は、“最大2分の1”という上限があることに注意しましょう。つまり、話し合いで調整することはできても、2分の1を超えることはできないということです。
なお、第3号被保険者であれば、3号分割により、平成20年4月以降のものは、当然に2分の1の割合で年金を受けられる点も押さえておきましょう。
親権
子供がいる場合、どちらが親権者となるかは非常に重要な協議ポイントとなります。
親権者が決まらなければ、離婚届を受理してもらえません。養育費や面会交流のほか、保育所や学校関係、その他親権に絡む話し合うべき内容は多様であり、どれも子供にとって重要なものです。
協議離婚においても、揉める代表的なトピックですので、慎重に話し合いを進める必要があります。
養育費
子供の親権者は、子供を養い育てるために相手に養育費を請求できます。養育費の金額は、裁判所のHPに掲載されている算定表が相場の額であるため、子供の年齢や人数、双方の年収などに応じて決定していきます。
この点、協議離婚のケースでは、話し合いによってお互いの事情を汲んだ養育費の額等に落ち着けることも可能です。ただし、一般的には、算定表の相場に則って話し合いを進めることが多いでしょう。
面会交流
面会交流は、子供の福祉のために行われるもので、離婚して離れて暮らす親と会ったり、電話やメールといったツールを使ったりして交流を図ることです。子供に危害が及ぶおそれがあるなど、よほどの事情がない限り、親権をゆずった側は面会交流する権利がありますし、親権者は面会交流を認めなければなりません。
面会交流の頻度や方法などは、協議において自由に決めることができます。後々トラブルになることを防ぐためにも、できるだけ細かく取り決めておくことをおすすめします。
離婚協議書の作成と公正証書の作成
【協議離婚】をする際に重要となってくるのが、協議内容を記した「書面」です。
離婚協議書とは、離婚に関する話し合いで合意した内容を記した書面のことです。二人の間の契約書と理解しておくとよいでしょう。
どんなにスムーズに協議が進んだとしても、何も書面に残さず、口頭だけというのはリスクが大きすぎます。お金や期限に関することなどは特に、その他二人で取り決めた内容を離婚協議書に盛り込んでおくと安心です。
また、後々のリスクを軽減するためにも、協議離婚の内容は公正証書にしておくことをおすすめします。
公正証書とは、国の機関である公証役場で公証人が作成し、20年間原本を保管してもらえる公文書です。作成費用は、慰謝料や養育費などの金額をトータルした価額によって5000円から段階を踏んで上がっていきます。
メリットとしては、強制執行受諾(認諾)文言があるケースでは、養育費などの金銭の支払いに遅滞があった場合に、裁判所の手続きを省略して強制執行手続きに踏み切れることです。離婚協議書とは効力が異なり、より強い強制力を持つ文書といえます。
離婚届を役所に提出する
離婚の準備が整ったら、離婚届を役所に提出しましょう。この受理をもって、離婚成立となります。
未成年の未婚の子供がいる場合は、離婚届の親権者欄への記載が必須となりますのでご注意ください。
届出時、必要な書類などは以下のとおりです。
<必要書類など>
- 離婚届
- 戸籍全部事項証明書(本籍地以外の役所に提出する場合)
- 離婚届に押印した夫婦の印鑑(補正する場合に必要なので持参すると良いでしょう)
- 届出人の写真付き本人確認書類
<必要に応じて要する書類など>
- 「離婚の際に称していた氏を称する届」(婚姻により姓が変わった者が離婚後も婚姻中の氏を称する場合)
- 入籍届一式(未婚の子供が離婚後新しい戸籍に移る場合)
離婚届を提出するタイミングに注意
注意すべきなのは、「きちんと双方が離婚の協議内容に合意してから」離婚届を提出することです。
「離婚する」という着地点には合意できたものの、細かい取り決め事項を後回しにして離婚届を出して受理されてしまうと、話し合いを進めようにも連絡がつかないなどの事態になりかねません。
離婚届を提出するのは、すべての離婚条件の取り決めが終了し、離婚協議書や公正証書の用意が整った最終段階のタイミングにしましょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚に応じてくれない場合や協議が決裂した場合の進め方
「離婚を切り出したものの相手が離婚に応じてくれない」
「お互い折り合いがつかず、話し合いが平行線のまま進まない」
といった事態は、おおいに想定できます。
こうした場合は、別居や、調停に切り替えることを検討しましょう。
別居を考える
【協議離婚】を進めるうえで、別居期間を設けることは有効的です。
話し合いが平行線だったり、お互い感情的になってしまったりしている場合には、別居により物理的な距離をとることで冷静に考えられる時間の確保にもつながります。離婚に応じてくれない相手も、別居に踏み切られたことにより本気度が伝わり、話し合いへの姿勢を変えてくれる可能性もあります。
また、相当期間の別居は、裁判において夫婦関係が破綻しているとみなされることもあります。おおよそ3~5年程度を要しますが、少なくとも別居の事実は離婚を進めるうえで有効にはたらくといえるでしょう。
離婚調停を視野に入れる
協議離婚はあきらめて、離婚調停を視野に入れるのもひとつの手です。
離婚調停とは、裁判所の一室で調停委員に間に入ってもらいながら話し合いを進めて合意を目指す裁判所の手続ですです。場所を裁判所に移し、第三者である調停委員が介入する点が、協議離婚との大きなちがいとなります。
また、別居同様、相手に離婚調停を検討している旨を伝えることで、離婚に対する覚悟が相手に伝わる可能性もあります。「裁判所に行くのは気が引ける」などと、相手が話し合いに応じるようになったり、折り合いをつけやすくなったりすることも考えられますので、離婚調停の申立てを検討する価値はあるといえるでしょう。
別居中やDV・モラハラがある場合の協議離婚の進め方
すでに別居している方や、相手によるDV・モラハラがこわくて離婚を切り出せない方もいらっしゃると思います。これらのケースでは、どのように協議離婚を進めていけばよいのでしょうか?
別居している場合
そもそも協議離婚は、面と向かって話し合わなくてはいけないものではありません。電話やメール、LINEなどのSNS、Zoomなどのビデオ通話といったツールを活用して協議を進め、最終的に合意に至れば協議離婚成立となります。
すでに別居しているケースでは、会って話をするには現実的に考えてさまざまな負担が伴います。二人の間で取り入れやすいツールを使って、話し合いを進める手段も検討するとよいでしょう。
DVやモラハラを受けている場合の協議離婚の進め方
DVやモラハラを受けている場合、当人同士で離婚の協議を進めていくのは危険です。
無理をせず、弁護士などの第三者に依頼して間に入ってもらい、当人同士の接触は極力避けたほうがよいでしょう。
DVやモラハラの加害者に離婚を持ちかけると、逆上されるなど、さらなる被害に遭うおそれがあります。子供がいる場合には、子供にも危険が及ぶ可能性もあり、身の安全を守るためにも自身での対応は避けるべきです。
場合によっては、警察や公的機関への相談を検討することをおすすめします。
協議離婚を希望する際は、離婚問題に精通した弁護士に代理人となってもらい、自分や家族の身を守ることを優先してください。
協議離婚を進める際の注意点
協議内容を録音しておく
協議内容を録音しておくのは、協議離婚を進めていくうえで非常に有用です。
議事録としても活用できますし、あいまいな記憶におどらされることもなくなります。また、話し合いの場面で聞き逃してしまっても、落ち着いて後から振り返ることもできるでしょう。
なお、相手に内緒で録音することは違法ではありませんので、事前に録音する旨知らせる必要もありません。
離婚届不受理申出書を提出しておく
相手が無断で離婚届を提出してしまうおそれがある場合には、離婚届不受理申出を利用しましょう。
離婚届不受理申出とは、事前に申請しておくことで、勝手に出された離婚届の受理を防ぐことができる制度です。不受理申出書を役所に提出することで手続きすることができます。
きちんと取り決めがなされないまま、不利な状態で離婚が成立してしまうのを防げますので、安心材料として申請しておくことをおすすめします。
不貞やDV等の証拠を出すタイミング
不貞行為やDVなどを理由に離婚したり、離婚慰謝料を請求したりする場合には、有用な証拠がカギとなります。そして、その証拠を出すタイミングがミソとなってきます。
最初からすべての証拠をひけらかしてしまうのは、反論されるおそれもありますので避けましょう。相手の出方を待ちつつ、ここぞというタイミングで決定的な証拠を提示するのが効果的です。
協議離婚の子供への影響
自分の親が言い争う姿を目にして、子供にとっていい影響はありません。協議離婚を進めるうえでは、子供の目になるべく触れないように配慮すべきです。
また、離婚が成立することで姓が変わるなど、子供への影響は多岐にわたります。ぜひ子供の立場に立って、考えうる影響への対策を検討しておきましょう。
男性でも有利に協議離婚の進められるのか
幼い子供には母親の存在が必要とされる「母性優先の原則」や、仕事が忙しいなどの理由により母親のほうが子供の面倒を見る時間が多い傾向にあるため、男性は、親権獲得をめぐる上で、どうしても不利な立場になってしまいがちなのが実情です。また、養育費など離婚に関するお金をめぐる上でも、一定程度の負担を要求されることも多々あります。
この点、協議離婚は、話し合いで取り決めができるからこそ、男性の不利な立場を交渉次第で好転できる可能性があります。
よくある質問
協議離婚ではなくいきなり離婚調停をすることはできますか?
協議離婚の段階をふまずに、いきなり離婚調停を申し立てることは可能です。
相手が話し合いに応じなかったり、別居中で音信不通だったりする場合には、協議しようがありませんので、調停を申し立てて離婚手続きを進めることとなるでしょう。
しかし、調停を申し立てたところで、相手が欠席する事態も考えられます。調停は、相手が欠席し続けた場合には不成立となりますので、最終的に裁判に移行する可能性があります。裁判をも欠席し続けるようであれば、調停・裁判を申し立てた側の主張や証拠のみが考慮され、裁判官が判断することとなります。
離婚届を提出した後に行う手続きは、どのようなものがありますか?
個別具体的な事情によって異なりますが、例えば次のような手続きがあげられます。
- 年金分割の請求手続き
- 離婚の際に称していた氏を称する届の提出
- 子の氏の変更許可の申立ておよび入籍届
- 住民票の異動、その他引越しに伴う手続き
- 保険や年金関係の加入・変更手続き
- 児童扶養手当の申請
- 就学援助の申請
- ひとり親家庭の医療費助成制度の申請
- 母子家庭の住宅手当の申請 など
協議離婚の証人には誰がなれるのでしょうか?
協議離婚の場合には、証人が必要です。
離婚届には、2名分の証人を記載する欄があり、この記載がなければ申請しても受理してもらえません。
成人していれば誰でも証人になれますので、証人になることに同意が得られれば赤の他人でも可能です。日本人に限らず、外国籍の方でも、その国籍で成人していれば証人として認められます。
実際には、双方の両親や友人に依頼することが多いでしょう。
なお、調停や審判、裁判など、裁判所の手続きを利用して離婚する場合には、裁判所を介しますので証人欄の記載は不要となります。
協議離婚を進める際、第三者の立ち合いは必要ですか?
協議離婚を進めるうえで、必ず第三者に立ち会ってもらわなければならないわけではありません。本人たちで進められるのであれば、当人同士で完結することも可能です。
ただし、感情的になるなどして冷静な話し合いができなかったり、双方ではなく一方的な言い分ばかりがまかり通ってしまったりするおそれがある場合には、第三者に立ち会ってもらったほうがよいでしょう。
ここで注意しなければならないのが、近しい存在の人は介入させるべきではないということです。
例えば、双方の親が間に入れば、自分の子供の肩を持ちがちになりますし、感情的になってしまう火種が増えてしまうことになりかねません。
冷静に話し合いを進めるためにも、離婚問題に精通した弁護士に間に入ってもらうのが有用です。
協議離婚を適切に進められるかご不安な場合は弁護士へご相談ください
協議離婚は、当人同士で進められるため、一見手軽に思える離婚方法といえます。
しかし、取り決め事項に抜け漏れがあったり、話し合いが平行線で思いの外時間がかかったり、気づかぬまま不利な条件で離婚に合意してしまったりするなどのリスクがあります。
こうしたリスク回避のために、離婚調停を申し立てることも考えられますが、裁判所の手続きをふむことに抵抗を感じる方もいらっしゃるでしょう。
そのようなときには、ぜひ弁護士にご相談ください。
弁護士への依頼は、「できれば協議離婚を成立させたい」と考えている方にとってうってつけの手段です。
弁護士に依頼すると、弁護士がご依頼者さまに代わって相手と話し合いをしますので、感情的になることなく冷静に進めることができます。
また、離婚分野の経験が豊富な弁護士は、ご依頼者さまが不利な状況に陥るポイントや、ご依頼者さまにとって有利にはこぶポイントを熟知していますので、納得のいく離婚を成立させる可能性を高められるでしょう。弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は,数多くの離婚問題に取り組み,依頼者の方にとって望ましい解決を数多く獲得してきました。
協議離婚に際し不安やお悩みがある方は、一度弁護士に相談する選択をしてみてはいかがでしょうか?
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)