監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士
もしも離婚の話し合いがうまくいかずに裁判にもつれ込んだとき、パートナーに【有責性】があるか、また、【有責配偶者】にあたるかどうかが、裁判所に離婚を認めてもらえるかどうかのカギの一つとなります。
また、「離婚」=「慰謝料」と頭に浮かぶ方もいらっしゃるかもしれませんが、離婚するすべての夫婦に慰謝料が発生するわけではなく、基本的に、配偶者に明確な【有責性】があるかどうかが問題になります。他方で、ご自身に【有責性】がある場合、【有責配偶者】に当たる場合、離婚に至るまでは、ハードルが高いケースも多く見られます。
では、その【有責配偶者】とは、どんな配偶者のことを指すのでしょうか。 このページでは、【有責配偶者】との離婚について、離婚問題に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が詳しく解説していきます。
目次
有責配偶者とは
【有責配偶者】とは、夫婦仲を破綻させ、離婚にまで至らしめた原因をつくった配偶者を指します。“有責”の文字通り、離婚に対して責任があるパートナーということです。
ただし、例えば、性格や金銭感覚が一致せずに離婚に至る場合など、どのような原因であっても【有責性】があり、【有責配偶者】にあたるわけではありません。
では、パートナーにどんな行為等があった場合に【有責配偶者】と認定されるのでしょうか。
有責配偶者となるケース
【有責配偶者】とされるのは、基本的に、民法770条で定められている次のような行為があった場合となります。
①不貞行為
配偶者ではない異性と自由意思のもと肉体関係を持つことをいいます(ただし、近時では同姓との関係も問題になっています。)。
②悪意の遺棄
例えば、仕事をしているのに生活費を入れない・出す気がない、理由もなく家を出て行ったまま別の家で生活しているといった行為をいいます。
③配偶者の生死が3年以上不明
“生死不明”なケースに限られており、生存しているが“行方不明”というケースは該当しません。生死不明が7年以上に及べば、失踪宣告制度を利用する選択肢もあります。
④配偶者が回復の見込みがない強度の精神病
例えば、統合失調症、躁うつ病などの精神病を抱え、夫婦として関係を継続するための交流がままならない状態で、精神科医の見立てで“回復の見込みがない”とされている場合に制限されます。
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由
例えば、配偶者から暴力や虐待を受けている、金銭トラブルを抱えている、犯罪行為に手を染めた、宗教活動の強要、性格の不一致などが考えられます。
有責性を証明するための証拠
パートナーに、前項にあげたような“有責行為”があることを理由に離婚や慰謝料の請求をするためには、客観的にみてもその有責性が認められるような証拠が必要になります。
具体的にどのような証拠が必要になるかは、有責行為によって変わってきます。例えば、①の不貞行為であれば、肉体関係を裏付ける、あるいは彷彿とさせる「写真」や「動画」、「LINEの履歴」などが、④の強度の精神病や⑤のうち暴力を証明するのであれば、「診断書」や「医師の意見書」などが証拠になり得ます。また、パートナーの「自白を録音したデータ」などがあれば、有力な証拠となる可能性があります。
有責配偶者からの離婚請求は原則認められていない
まず、【有責配偶者】からの離婚請求については、例えば、浮気相手と一緒になりたいから離婚したいなどと言われても、そう簡単には認められないことはご理解いただきやすいものと思います。
ただ、【有責配偶者】から離婚を求められた場合でも、他方の配偶者がそれに合意すれば離婚することは可能です。
しかし、【有責配偶者】からの裁判上での離婚請求において、他方の配偶者が離婚を拒んだ場合には、倫理に反するとして、原則的に認められません。これはあくまでも、他方配偶者が拒んだ場合なので、他方配偶者が離婚に応じる場合には離婚が成立する余地があります。
ただし、他方配偶者が離婚を拒んでいる場合でも、【有責配偶者】からの離婚請求が認められる例外的なケースもあるため、以下ご紹介いたします。
有責配偶者からの離婚が認められるケース
裁判所は、【有責配偶者】からの離婚請求とはいえ、夫婦としての関係がすでに破綻しているケースにまで婚姻関係を維持する、つまり離婚を認めないと一様に命じるのではなく、夫婦ごとの状況、離婚後の生活等を見据えて判断がなされます。
具体的には、次の3つの要件すべてを備えている場合には、【有責配偶者】からの離婚請求が認められる可能性があります。
- 夫婦の別居期間が、婚姻期間に対して長期間に及ぶといえる場合
- 夫婦の間に未成熟子(経済的自立ができていない子供)がいない場合
- 離婚請求をされた方の配偶者が、離婚によって精神的・社会的・経済的に苛酷な状態に身を置くことになる事情がない場合
勝手な離婚を防ぐには、離婚届の不受理申出制度を利用する
役所に離婚届の「不受理申出」をしておくと、パートナーが勝手に届け出た離婚届を受理されないようにすることができます。
「協議離婚」の場合、本来は夫婦が合意のうえで判を押した離婚届を役所に提出します。
しかし、離婚条件に折り合いがつかず揉めている、不貞相手に離婚を急かされているなどの理由から、パートナーの独断で離婚届を提出していた場合でも、役所に受理されてしまうおそれがあります。なぜなら、役所は離婚届を受け取る際に、夫婦がきちんと合意したうえでの届出かどうかまで聴取していないからです。
一度受理された離婚届を無効にする手続等には、調停や裁判が必要になるので、かなりの時間と労力を要します。
こういった事態を防ぐためには、上記したような離婚届の「不受理申出」制度の利用が有用です。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
有責性に時効はあるか
“有責性”そのものに時効は設定されていません。したがって、「何年も前のパートナーの有責行為」がわだかまりとなっており、やっぱりこれ以上夫婦を続けていくことはできないと離婚を決意した場合には、裁判でも「何年も前のパートナーの有責行為」を理由とする離婚請求が認められる可能性があります。
もっとも、有責行為があった後も同居を解消していないといった場合には、夫婦関係が修復したものとして扱われ、直接の離婚原因とは認められないケースもあります。
他方で、“有責行為を理由とする慰謝料請求”には時効がありますので注意しましょう(分かりにくいですが、例えば不貞を理由として離婚に至る際の慰謝料と、不貞に対する慰謝料請求(不貞相手に対する慰謝料請求を含め)とは厳密に考えれば別物として考えられるということです。)。
どちらにも有責性がある場合の判断は?
夫婦のどちらにも有責性がある場合は、2人が負う責任の度合いによって判断が変わってきます。
具体的な枠組みとしては、以下のとおりです。
責任がより大きい方からの離婚請求:有責配偶者から無責配偶者への離婚請求と同様
責任がどちらかといえば小さい方からの離婚請求:無責配偶者から有責配偶者への離婚請求と同様
同程度の責任があるという場合:双方の責任の軽重を判断しにくいため、無責配偶者から無責配偶者への離婚請求と同様
別居中の婚姻費用について
別居中においても、夫婦は婚姻費用(生活費、子供の養育費等)を分担する義務がありますが、主として別居に至る原因をつくった【有責配偶者】が、婚姻費用(自身の生活費等)の支払いをパートナーに求めるのは信義則に反しているとして、認められないケースがあります。
例えば、妻側が不貞を行い、別居に至った場合に、妻から夫に対する婚姻費用請求は一部制限される可能性があるでしょう。
ただし、別居は親の事情であり、子供には責任がないため、【有責配偶者】が未成熟子を連れて別居していた場合には、子供の養育費相当分の請求は認められるべきと考えられています。
有責配偶者に慰謝料請求する場合の相場は?
【有責配偶者】に慰謝料請求をすると、いくらの慰謝料を獲得できるのでしょうか。
実は、獲得し得る慰謝料額は、慰謝料の発生原因、つまり、不貞行為や暴力など、パートナーにどんな有責行為があったかによって異なります。また、その有責行為によって離婚に至ったか、そうでないかによっても異なります。さらに、婚姻期間や子供の有無などによっても異なります。
全体の相場としては、100万~300万円程度が目安となりますが、こればかりはケースバイケースになってきますので、弁護士に相談いただくことをおすすめします。
有責配偶者との離婚は弁護士に依頼したほうがスムーズに進みます
パートナーが原因で夫婦関係にヒビが入り、離婚を決断するまでに至ったのであれば、話し合いにしても裁判所の手続を利用するにしても、こちらに有利な条件で離婚成立をさせたいところですよね。
もっとも、例えばパートナーが不倫をしていて家に帰って来ない、日常的にパートナーから暴力を振るわれているといったケースでは、離婚を話し合うきっかけすらなかったり、離婚話を持ち掛けることが危険であったりするケースもあるでしょう。
また、パートナーの有責行為を理由に裁判によって離婚や慰謝料を請求する場合、有責性を証明しなければならないのはこちら側であるため、証拠集めや立証の仕方など、交渉や調停、裁判で戦うためのノウハウが必要になってきます。
このように、【有責配偶者】との離婚にお悩みの方は弁護士へご相談ください。
弁護士の介入が、パートナーが真剣に離婚に向き合うきっかけとなり、交渉がスムーズに進む可能性があります。また、裁判所の手続に精通した弁護士を味方につけることで、よりご相談者様に有利な解決が実現する可能性もあります。
まずは、問題解決のために何ができるのか知るきっかけとして、お電話をいただければと思います。弁護士法人ALGの弁護士とスタッフがチーム一丸となってご相談者様をサポートいたします。弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士は、これまで離婚問題、不貞・暴力などの慰謝料問題を数多く解決に導いてきた実績がありますので、ぜひ一度弊所までご相談ください。
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保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)