熟年離婚の原因と、離婚前にしておくべき準備

離婚問題

熟年離婚の原因と、離婚前にしておくべき準備

神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長 弁護士

【熟年離婚】といえば、一般的に、おおよそ20年以上の間夫婦として生活を送ってきた2人が離婚することを指すものをいえます。何歳以上の夫婦かどうかではなく、何年以上の結婚生活を過ごしてきたかが【熟年離婚】といえるかどうかの基準であると考えられます。
多様なライフスタイルが選択できる現代において、女性の社会進出の促進や、年金分割制度の改正などにより、経済的な不安解消の兆しが見えたこと等も後押しとなり、【熟年離婚】を選択する夫婦が増加傾向にあります。

このページでは、そんな【熟年離婚】をご検討の方が、パートナーに離婚を切り出す前に準備すべき事項等を中心に、離婚問題、財産分与や年金分割に精通した弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士が以下解説していきます。

熟年離婚の原因

夫婦の数だけ離婚に至る経緯や理由はありますが、ここでは、【熟年離婚】ならではともいえる離婚に至る原因の例をいくつか紹介します。

相手の顔を見ることがストレス

熟年離婚のタイミングの一つとして、パートナーの“定年退職”があげられます。
例えば、家にいても一方は家事をせず、一日中ずっとテレビを見ている、起床・就寝の時間、食事の時間が不規則になってしまったなど、定年退職により、夫婦2人で過ごす時間が長くなったことで新たに生まれた不満や、これまでに蓄積した不満が爆発した結果、もはや「顔も見たくない!離婚したい!」というところまで行きついてしまうケースもあるようです。
むしろ、もはや定年前に既に離婚したいという心理だったものの、退職金の支給を待って離婚する、という計画的なケースもあるかもしれません。

特に、2020年の新型コロナウイルス流行におけるテレワークの普及によって、夫婦が顔を合わせる時間が増えたことで、上記のような家庭が増えており、“コロナ離婚”と呼ばれる離婚事案も増えています。

価値観の違い、性格の不一致

そもそも血がつながった親兄弟であっても価値観や性格に違いがあるのですから、結婚して“家族”になったとはいえ、もとは他人、価値観や性格は違って当たり前です。
結婚当初はそういった違いを受け入れて、あるいは楽しんで暮らしていた夫婦も、時を経て次第に違いによる悩みを抱え、それを苦痛を感じることもあるでしょう。また、実は結婚当初から我慢していたという方もいるかもしれません。
例えば、お金の使い方や子供・親族等との付き合い方、物事の優先順位など、自分が“どうしても譲れない”事項について、我慢ができるラインを超えてくると、「お互いが亡くなるまで添い遂げるのは無理かもしれない……」と思ってしまうケースもあるようです。

夫婦の会話がない

歳を重ね、どんどんと会話が減ってしまうと、本当に“夫婦”といえるのだろうかと不安を募らせ、孤独を感じてしまうケースもあります。
また、一方は「会話がなくても落ち着く相手だな」とプラスに思っていても、他方は必要な連絡事項すら話してくれないことに苛立ちを感じているケースも考えられるでしょう。夫婦といえども、思っていることすべてが以心伝心とはいきませんし、ましてやお互いのスケジュールや気持ち、悩みなどは言葉にしなければ伝わるはずもありません。
会話がないことで気持ちのすり合わせができずに、離婚に向かってしまう夫婦もいるようです。

子供の自立

子供の自立も、熟年離婚のタイミングとして少なくありません。
“離婚”の二文字はずっと頭にあったものの、子供への心理的な影響を考えて、あるいは経済的な理由から、子供の進路選択の妨げになってはいけないなどと思い、なんとか離婚を踏みとどまっている方は多いものといえます。そのため、子供の自立、就職等を機に、一方から離婚を切り出すケースもあります。
また、子供が結婚して家を出たら気まずくなってしまったといった場合に、子供の存在が夫婦をつなぎとめていたことに気付き、離婚を意識し始めるケースもあるでしょう。

借金、浪費癖

パートナーの趣味やお金の使い方にいちいち干渉するのは、干渉される側からすれば、たとえ夫婦でも気分が良いものではないでしょう。
しかし、お金の浪費、例えば、賭け事や趣味の買い物、ゲームの課金などで小遣いを使い果たし、あげく借金までする生活を何年も続けているのであれば話は変わってきます。
許容の範疇を超えて借金や浪費をし、家計を圧迫させるようなパートナーと老後を過ごしていくのは現実的ではなく、ある程度年齢を重ねた大人の“癖”や“習慣”を修正することもなかなか難しいため、離婚に至ってしまうのも仕方がないのかもしれません。

介護問題

熟年離婚の場合、夫婦双方の親の介護、あるいはパートナーの介護問題が浮上してくる可能性があります。特に義両親の介護は支援の程度にかかわらず負担は大きく、とても良い関係性を築いているとはいえない場合、より強い嫌悪感を持つことは想像に難くありません。
例えば、「介護は嫁がするもの」などと同居や通いで連日義両親の介護を強要されているのに、当の夫はまったくかかわろうとせず、妻の親に何があったときにも何もしてくれないといったケースでは、夫や義両親と縁を切って、自身の両親に対する介護を手厚くしてあげたいと思うのも、自然な感情かもしれません。こういった場合には、【熟年離婚】に至りやすいケースの一つといえます。

熟年離婚に必要な準備

熟年離婚では、婚姻期間が長い分、離婚後の生活がガラッと変わることになります。その変化に対応できるよう、経済面・メンタル面等、ある程度準備を整えてから離婚に踏み切ることが大切です。
以下、準備事項として考えられる6つの例を紹介します。

就職活動を行う

離婚した場合、例えば、共働き夫婦の場合は一方の収入分が丸々なくなり、専業主婦(主夫)の場合は収入源がなくなります。特に後者の場合、離婚後の生活のためにまずは仕事を見つけて収入を得られる状況をつくり、経済的な不安を少しでも解消しておくことが大切です。長らく仕事から離れている場合には、就職活動に有利な資格取得を目指すところから始めてみるのも良いでしょう。

味方を作る

離婚手続に着手して、離婚が成立するまでの期間はケースバイケースですが、離婚するかどうか悩んでいる時期からカウントすると、ある程度長期に及ぶことが考えられます。この長い期間を1人で悩み続けることは、精神衛生上良くありません。
家族や気心の知れた友人など、困ったときに相談できる、あなたに寄り添って話を聞いてくれる味方がいることで気持ちは楽になりますし、その存在が苦境を乗り切る活力にもなってくれるでしょう。

住居を確保する

例えば、夫婦で買った家に住んでいて、財産分与によってその家に相手が住み続けることが濃厚な場合や、夫婦で住んでいた賃貸物件を引き払うことを決めた場合、現在住んでいる家を出ていかなくてはなりませんから、離婚後の住居を確保しておかなければなりません。
引越しとなるとまとまったお金が必要になりますし、家賃や職場との距離といった条件の合う物件がすぐに見つからない可能性もありますので、引越し貯金や住居探しは早めに着手することをおすすめします。退居までに時間がない場合には、実家等に一時身を置けないか相談してみるのも手です。

財産分与について調べる

離婚をすることになれば、【財産分与】を行うことになります。【財産分与】は簡単にいえば、婚姻期間中に夫婦で貯めた財産を分け合うことです。婚姻期間が長いほど蓄積した財産も多く、分与額は高額になる可能性があります。
慰謝料請求等がない場合でも、財産分与で得られるお金が当面の生活の基盤となり得ることもあるので、まずは夫婦の財産のうち、財産分与の対象となる財産、対象にはならない財産を確認し、さらに対象財産の評価額まで調べられるとベストです。貯蓄した財産を夫婦で折半することが基本なので、自身の取得分がどれくらいになるかイメージすることができるでしょう。

専業主婦(専業主夫)の場合は年金分割制度について調べておく

熟年離婚の場合、離婚後の収入源となる年金は大切になってきます。
基本的に、会社員等のパートナーが「厚生年金+国民年金」分をもらえる一方で、専業主婦(夫)は「国民年金」分のみの受け取りとなりますが、【年金分割】の請求によって、専業主婦(夫)がもらえる分を増やすことが可能です。【年金分割】とは、婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を分割する手続を指します。この【年金分割】とは、夫婦の合意によって分割する『合意分割』と、合意によらずとも行える『3号分割』という2つの方法があります。
仮にパートナーに分割を拒まれた場合でも、「3号分割」という方法を利用すれば、分割の期間は制限されてしまうものの、パートナーの同意なく2分の1の割合で分割できます。
もっとも、【年金分割】は請求しなければ実行されないうえに、離婚日の翌日から2年以内という請求期限もありますので注意が必要です。

退職金について把握しておく

熟年離婚だと、定年退職のタイミングで決行する、あるいは定年退職が迫っているケースが考えられるため、「退職金」が財産分与の対象になる可能性があります。退職金は金額が大きいため、相手の退職金、自身の退職金ともにいくらになるのか、大まかにでも把握しておくと良いでしょう。 退職金の扱いについて、詳しくは<5 退職金は必ず財産分与できるわけではない>をご覧ください。

熟年離婚の手続き

熟年離婚にあたる離婚手続きも、ほかの夫婦と同様に、「話し合い」→「調停」→「裁判」の流れで行います。 具体的には、夫婦の話し合いだけで離婚に合意できれば『協議離婚』、揉めてしまい裁判所の手が必要になったらまずは『離婚調停』、それでも解決できなければ『離婚裁判』で争い、裁判所に離婚の可否および離婚条件の決定を委ねます。

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熟年離婚で慰謝料はもらえるのか

離婚に際して慰謝料が発生するケースにはいくつかのパターンがあります。熟年離婚でも、パートナーにいずれかのパターンに当てはまる行為があり、また、その行為のせいで夫婦関係が崩れて離婚に至ってしまった場合には、慰謝料をもらえる可能性があります。

《例》

  • 不貞行為(いわゆる浮気や不倫のことで、肉体関係があることが基本)
  • DV・モラハラ
  • 悪意の遺棄(生活費を入れない、一緒に暮らすことを拒む等)

慰謝料額は“精神的苦痛の大きさ”を表すものであるため、個別に異なります。「婚姻期間の長短」も考慮要素の一つで、熟年離婚の場合は婚姻期間が長いため、例えば婚姻当初からDVを受けていたなどのケースでは、精神的な苦痛を受けた期間も長く、ダメージは大きく、慰謝料額を比較的高額に判断されることもあります。

退職金は必ず財産分与できるわけではない

退職金を財産分与の対象に含まれるかどうかの判断は、離婚のタイミングが退職金支払いの前か後かによって大きく変わってきます。特に支払い前の場合は、支給の“確実性”がポイントになってきます。
また、対象となるケースでも、支給額あるいは支給予定額のすべてが対象になるというわけでもありません。
以下、もう少し詳しくみていきましょう。

退職金がすでに支払われている場合

離婚のタイミングが退職金支払いの後、つまり、退職金がすでに支払われた後に離婚する場合は、ほかの預貯金や現金と同じく、基本的に財産分与の対象になると考えられます。

なお、財産分与の対象になるのは、退職金の算定対象期間と、夫婦の婚姻期間(別居期間を除く)が重なる部分の金額相当となります。したがって、例えば、勤続年数30年で、うち婚姻期間が20年で勤務先から退職金をもらった場合には、支給額のうち勤続年数に占める婚姻期間相当分が財産分与の対象になるので、支給された退職金の20分の30に相当する額が、財産分与の対象となります。

もっとも、退職金をもらってから離婚までの間に退職金をほとんど使い切ってしまったといった場合、どちらか一方の浪費等が原因でない限り、使ってしまった分が財産分与として必ずしも考慮されるわけではないです。

退職金がまだ支払われていない場合

離婚のタイミングが退職金支払いの前、つまり、退職金がまだ支払われていない場合は、 “ほぼ確実”に支払われるといえるとき、財産分与の対象になる可能性が高いです。
退職金支給の“確実性”は、会社の就業規則等に退職金規程があるか、規程の中に明確な計算方法が記載されているか、会社の経営状況はどうか、退職金支給まであとどのくらいの期間があるかといった事情を考慮して判断されます。

熟年離婚したいと思ったら弁護士にご相談ください

これまでに解説してきたとおり、離婚のためには、離婚後の生活など下準備しなければならないことがたくさんあります。長い年月をご夫婦として過ごしてきたのですから、心の整理も必要になるでしょう。ご夫婦の話し合いで円満に離婚できれば良いですが、離婚することには合意できても、離婚条件で揉めてしまうことも考えられます。

結婚期間中も気苦労があったかと思いますが、離婚手続きは、多くはそれ以上に気力・体力を消耗するかもしれない大仕事なのです。 後悔が残らないよう区切りをつけて、新しい人生をスタートさせるためにも、ぜひ紛争解決のプロである弁護士にご相談いただければと思います。

弁護士法人ALGは、多くの解決実績をもとに、ご相談者様のご希望に応じた最適なサポートをご提案し、二人三脚で問題解決に取り組んでまいります。弁護士法人ALGの神戸法律事務所の弁護士も、熟年離婚の問題や、財産分与・年金分割などの問題についてかなり多く取り組んできました。
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神戸法律事務所 所長 弁護士 小林 優介
監修:弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 神戸法律事務所 所長
保有資格弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:51009)
兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。