診療録(カルテ)の任意開示

監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 所長 弁護士
- カルテ
目次
はじめに
医療過誤が疑われ訴訟提起を検討する場合、事前に医療調査を行い、医療過誤に該当するかについて判断しなければなりません。そのためには、まず判断資料となる医療記録を取得することが不可欠です。
医療記録の取得方法には、①証拠保全手続と②任意開示請求の2つの方法があります。
事案によって、どちらの方法を採るべきか
以下では、②任意開示請求に関して解説します。
任意開示の流れについて
(1)任意開示の方法について
開示を受けたい病院に対して、診療録の開示申請を行います。
通常、患者本人や患者家族(遺族)であれば、開示請求を行うことが可能です。
患者本人でなく、遺族が開示請求をする場合は、患者本人との関係を証明するために戸籍謄本等の証明書類を求められるケースもあります。具体的な開示方法については、各病院ごとに定められているので、当該病院の開示申請の受付を行っている部署に事前に準備するものを確認しておいた方がよいでしょう。
なお、診療録の開示申請を行う際に、開示申請書に開示理由を記載する欄が設けられていいたり、病院から診療録が必要となる理由について尋ねられたりすることがあります。
しかしながら、厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」では、「患者等の自由な申立てを阻害しないため、開示等の求めに係る申立て書面に理由欄を設けることなどにより申立ての理由の記載を要求すること、申立ての理由を尋ねることは不適切である。」とされています。
そのため、必ずしも開示理由を答えなければならないわけではありません。
(2)開示申請後について
診療録(カルテ)の開示申請を行ったとしても、通常当日に診療録を受け取ることはできません。
開示する診療録の量や病院の状況等によって異なりますが、多くの場合2~3週間後に印刷したものや電磁的記録の交付を受けます。
(3)任意開示の費用について
医療過誤が疑われる場合にも診療録の開示費用を支払わなければならないのでしょうか。
結果的に医療過誤に該当した場合には、診療録の開示費用分も損害として請求することは可能です。
しかし、診療録(カルテ)の開示時点では、医療過誤に該当するかどうか(医療機関側に責任があるかどうか)は不明ですので、基本的に診療録の開示費用や印刷代等の費用を支払う必要があります。
任意開示請求のメリット・デメリットについて
診療録(カルテ)の取得について、①証拠保全手続か②任意開示請求の2つの方法があり、それぞれメリット・デメリットがあります。
【任意開示請求のメリット】
- ・方法が簡便であること。
- ・費用が安く済むこと。
- ・証拠保全に比べて比較的早く入手できること。
【任意開示請求のデメリット】
- ・任意開示請求では開示されない可能性のものがあること。
- ・診療録(カルテ)等の改ざんの虞(おそれ)があること。
- ・任意開示請求を行うと後々証拠保全を行う場合、その効果を減殺する危険性があること。
以下、証拠保全手続と任意開示請求との比較を表にまとめます。
証拠保全手続 | 任意開示請求 | |
---|---|---|
開示の範囲 | 基本的に全部 | 一部開示されない可能性がある |
方法の容易さ | 煩雑(通常弁護士による申立てが必要) | 容易(本人・遺族が申請できる) |
改竄の危険性 | (任意開示手続と比較した場合)低い | (証拠保全手続と比較した場合)高い |
費用 | 高額(弁護士費用やカメラマン代が必要) | 低額(開示に関する費用のみ) |
入手までの期間 | (任意開示請求と比較した場合)遅い | (証拠保全手続と比較した場合)早い |
上記のとおり、改ざんの危険性が低い場合には任意開示請求の方がよいでしょう。
しかし、事案によっては、証拠保全を行った方がよい場合もありますので、どちらを選択すべきかは、弁護士に相談してから行うべきです。
任意開示請求を拒否された場合
厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」では、以下のとおり定められています。
診療記録の開示に関する原則
- ○医療従事者等は、患者等が患者の診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならない。
- ○診療記録の開示の際、患者等が補足的な説明を求めたときは、医療従事者等は、できる限り速やかにこれに応じなければならない。この場合にあっては、担当の医師等が説明を行うことが望ましい。
基本的に医療機関は、患者や遺族らから診療録(カルテ)の開示請求があった場合には、開示を行わなければなりません。
任意開示請求を拒否された場合には、改竄等の危険性もありますので、必ず弁護士にご相談下さい。
最後に
診療録(カルテ)の取得について、①証拠保全手続か②任意開示請求の2つの方法があり、事案によっては、任意開示請求は非常に有用な手段といえます。
しかし、任意開示請求は、改ざんの危険性があり、任意開示請求では開示されない医療記録もあります。また、性急に任意開示請求をしてしまうと、その後証拠保全手続を行う場合、証拠保全手続のメリットを十分享受できない可能性があります。
医療記録(カルテ)の取得は、医療過誤訴訟において、その基礎となる資料を収集する極めて重要な手続です。
その最初の方針選択を誤らないためにも、記録の取得前に一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
この記事の執筆弁護士
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保有資格所長 弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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