カルテの証拠保全
監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
- カルテ
目次
はじめに
医療過誤が疑われ訴訟提起を検討する場合、事前に医療調査を行い、医療過誤に該当するかについて判断しなければなりません。そのためには、まず判断資料となる医療記録を取得することが不可欠です。
医療記録の取得方法には、①証拠保全手続と②任意開示請求の2つの方法があります。
以下では、①証拠保全手続に関して解説します。
証拠保全手続について
(1)証拠保全手続とは
証拠保全手続とは、裁判所が申立人とともに開示を求める病院に赴き、病院内にある医療記録(カルテ等)の検証を行う手続です。
(2)証拠保全手続の流れについて
証拠保全の申立て
まずは、裁判所に証拠保全の申立てを行います。
申立てにあたっては、保全の理由と必要性が必要となります。
保全に至る事実経過や診療録(カルテ)等の改ざん、破棄、隠匿のおそれがあることを具体的に主張していく必要があります。
裁判官面談
保全の理由や必要性について釈明を求められたり、証拠保全期日の日程や待ち合わせ場所、同行者の確認、検証物の優先順位等、当日の流れについて事前に打ち合わせを行います。
証拠保全期日
証拠保全期日当日は、通常、執行官により証拠保全が開始される1~2時間前に病院に証拠保全決定書が送達されます。それにより、病院側は1~2時間後に証拠保全が開始されることを認識します。
証拠保全手続が開始されると、裁判所は、申立書の検証物目録に記載された医療記録について、順次病院側に開示するよう求めます。
一般的に、検証調書を作成するために、診療録(カルテ)等の医療記録が印刷、複製され、電子カルテシステム等に保管されているデータと印刷されたものが一致しているかの確認を行います。
当日中に保全作業が終了しない場合には、①終了しなかった部分について任意開示請求を行う、②留置命令の発令を求め、裁判所への持ち帰りを求める等の方法で対応すべきです。
実際に証拠保全期日当日に全ての検証が終わらないケースは少なくありません。検証物が多いことが予想される場合や開示までに時間を要することが予想される場合には、裁判所となるべく早い時間から証拠保全を開始してもらうように交渉を行ったり、検証物の優先順位を設ける等して十分対策をしておくべきでしょう。
検証調書の謄写
裁判所は、証拠保全期日において印刷・複製されたものを裁判所に持ち帰り、検証調書を作成します。
検証調書が作成された後に、謄写申請を行うことで保全された医療記録を取得できます。
なお、検証調書の謄写までにはかなりの時間を要します。証拠保全期日当日に病院側に任意に交付してもらえないか交渉することも必要でしょう。
(3)証拠保全申立にあたって必要な事項について
証拠保全手続は、申立てを行えば、どのような事案でも証拠保全がなされるわけではありません。証拠保全決定を受けるためには、保全の理由及び保全の必要性が認められる必要があります。
「保全の理由」では、証拠保全に至る経緯を説明し、病院側に過失が認められ、損害賠償義務を負う可能性があることを主張・疎明します。
「保全の必要性」では、改ざん・破棄・隠匿される具体的な危険性を疎明する必要があります。例えば、診療録の開示を求めたが断られた、医師らに説明を求めたが、説明をしてくれなかった、過去に改ざん歴がある等の事情をいいます。
証拠保全手続のメリット・デメリットについて
医療記録の取得には、①証拠保全手続か②任意開示請求の2つの方法があり、それぞれメリット・デメリットがあります。
【証拠保全手続のメリット】
- ・開示漏れのリスクが低いこと。
- ・診療録(カルテ)等の改ざんの危険性が低いこと。
【証拠保全手続のデメリット】
- ・裁判所への申立てが必要であり、基本的に弁護士による書面作成が必要となること。
- ・弁護士費用やカメラマン費用等の費用がかかること。
- ・任意開示請求に比べて、医療記録の取得までに時間を要すること。
以下、証拠保全手続と任意開示請求との比較を表にまとめます。
証拠保全手続 | 任意開示請求 | |
---|---|---|
開示の範囲 | 基本的に全部 | 一部開示されない可能性がある |
方法の容易さ | 煩雑(通常弁護士による申立てが必要) | 容易(本人・遺族が申請できる) |
改竄の危険性 | (任意開示手続と比較した場合)低い | (証拠保全手続と比較した場合)高い |
費用 | 高額(弁護士費用やカメラマン代が必要) | 低額(開示に関する費用のみ) |
入手までの期間 | (任意開示請求と比較した場合)遅い | (証拠保全手続と比較した場合)早い |
上記のとおり、任意開示請求では開示がなされない医療記録がある場合や改ざんの危険性が高い場合には証拠保全手続の方がよいでしょう。
しかし、証拠保全手続には、多額の費用や時間を要することから、全ての事案において証拠保全手続が推奨されるわけではありません。どちらを選択すべきかは、弁護士に相談してから行うべきでしょう。
最後に
証拠保全は、一般的に弁護士による申立てが必要であり、費用や時間がかかる手続ですが、開示漏れのリスクや改ざんのリスクが任意開示に比べて低い手続といえます。
事案の中には、証拠保全を行う必要性が極めて高いものがあり、任意開示請求を行うことで、証拠の改ざん、隠匿を図られてしまう危険性があります。
医療過誤訴訟の初動に係わる重要な手続ですので、その最初の方針選択を誤らないためにも、記録の取得前に一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
この記事の執筆弁護士
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大阪弁護士会所属
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保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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