胆石除去手術の術前腹部X線検査で見落とされた悪性リンパ腫について3000万円で訴訟上の和解が成立した事例
監修弁護士 小林 優介弁護士法人ALG&Associates 所長 弁護士
事案の概要
患者さんが腹痛を訴えて被告病院で検査をしたところ、胆嚢や胆管に胆石が発見されました。そして、この胆石の除去手術を行い、手術自体は無事成功したのですが、その約1年後に市の健康診断を受けたところ、CT検査で空腸付近に直径約14センチの腫瘤所見が確認され、これが悪性リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫)でした。腫瘤の一部を切除する姑息的手術が行われましたが予後不良で、悪性リンパ腫が見つかってからわずか3ヶ月後にお亡くなりになりました。
このケースでは、術後に見つかった悪性リンパ腫は、胆石除去手術の術前から存在したのではないかが問題となりました。そして、術前に撮影された腹部X線写真を確認すると、最大径約10㎝の腫瘤陰影が認められたのです。そこで、この術前の腹部X線写真に写っている異常所見の見落としを被告病院の過失として、提訴しました。
弁護士の方針・対応
この事例では、胆石除去手術の術前に実施された腹部X線写真に認められる異常所見の見落としが、被告病院の過失となるかが最も大きな争点になりました。そもそも、術前に実施された腹部X線撮影は、癌や悪性リンパ腫などの悪性新生物を疑って行われたスクリーニング検査ではありませんし、そのための精密検査でもありません。あくまでも、胆石除去手術を前提として術前評価を目的になされた検査に過ぎないのです。
素人的には、「検査目的が何であろうと、そこに異常所見が写っている以上、見落とすのは問題だろう」と考えがちですが、画像の読影というのはそれほど簡単なものではなく、異常所見の検出力は、撮影目的に大きく影響されるのです。したがって、見落とし=過失とするわけにはいきません。しかしながら、この事例の特殊性は、見落とされた異常所見が最大径約10㎝にも及ぶ大きな腫瘤陰影だったことです。
そこで、原告側の方針としては、たとえ検査目的が悪性新生物のスクリーニングではなかったとしても、最大径が約10㎝にも及ぶ巨大陰影を拾い上げることは困難ではなく、その点に被告病院の過失があることを論じることとしました。
結果
提訴してから約1年程度で、被告が原告に3000万円を支払うという内容の和解が成立しました。高額和解となったのは、見落とされた異常所見が大きな腫瘤陰影であったことが影響しております。
また、患者さんが罹患した悪性リンパ腫は、中等度の悪性度で、化学療法の治療成績もよいという知見があったため、見落とされていなければ患者さんの長期生存の可能性も十分にあったことが考慮されております。もし異常所見がもっと小さなものだったら、ここまで高額な和解で終結とならなかったのではないかと思われます。
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保有資格所長 弁護士(兵庫県弁護士会所属・登録番号:57264)兵庫県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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