医師の説明義務について

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

  • 説明義務

医療過誤の相談を受ける中で、患者や家族の方が医療機関側の説明に関して不満を抱かれているケースは少なくありません。

患者や家族に対する説明は、患者の自己決定権に係わる重要な手続であり、また、医療機関側も不要な調査・訴訟を回避するためにも重要な手続といえます。

本稿では、医師の説明義務に関する疑問について説明します。

説明義務とは

医師は、一般的に診療契約に基づき、患者に対し説明義務を負っているものと解されています。

説明義務の具体的な内容については、①当該疾患の診断(病名と病状)、②実施予定の治療の内容、③治療に付随する危険性、④他に選択可能な治療方法があればその内容と利害得失、⑤予後などについて説明すべき義務であると解されています(最判第3小法廷判決平成10年(オ)第576号平成13年11月27日)。

また、医療機関は、治療行為の前に行う説明とは別に、事後的に診療の経過や悪しき結果の原因等について説明する義務(弁明義務)も信義則上負っていると解されます。

どのような場合に説明義務違反といえるのか?

まず、患者は、自己決定権(自己の個人的な事項について自ら決定する権利)を有しており、そもそも治療を受けるか否か、また、複数の治療方法がある場合にどの治療方法にするかについて選択する自由を有しています。

患者が、それらの意思決定を適正に行うためには、自分がどのような病気に罹患しているのか、治療を行わなければどうなる可能性が高いのか、治療や検査を行うことでどのようなメリットがあるのか、治療や検査のデメリット(危険性等)はどの程度あるのか、他の治療方法はどのようなものがあるのか等について十分に認識する必要があります。

そのため、医師は、患者が治療を受けるか否か、また、複数の治療方法がある場合にどの治療方法にするかについて判断できるように、上記の事項について説明を行わなければなりません。

患者の自己決定権を侵害するような誤った説明や不十分な説明がなされた場合には説明義務違反となると考えられます。

もっとも、治療に関するメリットやデメリットをどの程度まで説明をしなければならないかというのは極めて難しい問題といえます。

裁判例では経腟分娩に不安を抱き、再三帝王切開術を希望することを医師に伝えていた事案において、「帝王切開術を希望するという上告人らの申出には医学的知見に照らし相応の理由があったということができるから、被上告人医師は、これに配慮し、…経腟分娩によるとの方針が相当であるとする理由について具体的に説明するとともに、…経腟分娩の場合の危険性を具体的に理解した上で、被上告人医師の下で経腟分娩を受け入れるか否かについて判断する機会を与えるべき義務があった。」と判断しています(最判第1小法廷判決平成14年(受)第989号平成17年9月8日)。

そのため、医師らは、患者の全事情(知り得た情報も含みます。)に基づいて、その患者が重要視するであろうことを予見できる場合には、その事項について、医師の知り得べき情報も説明すべきと考えられます。

説明義務の場合の損害額はどの程度か?

適切な説明義務がなされていたならば、生じていなかった損害、得られたであろう利益、慰謝料等が損害となります。

しかし、説明義務違反の多くの裁判例では、説明義務違反と死亡や後遺症が残存したこととの因果関係までは認められないと判断されており、自己決定権侵害の慰謝料のみが損害として認められています。

そのため、説明義務違反の損害額としては10万~200万円程度にとどまる事案が多いといえます。

最後に

患者や家族への説明義務は、患者の自己決定権に係わる重要な義務であり、医療従事者らは、業務に追われる中でも決して軽視してはなりません。

また、患者に対し、十分な説明がなされなかったり、説明内容が患者に十分に伝わっていないことで、患者や家族らが医療従事者への不信感を募らせ、結果として悪しき結果が生じた場合に医療過誤ではないかとトラブルになるケースは少なくありません。

そのため無用なトラブルを回避するためにも、患者やその家族に対して十分な説明を行うことは極めて重要です。

この記事の執筆弁護士

弁護士 宮本 龍一
弁護士法人ALG&Associates 弁護士 宮本 龍一
大阪弁護士会所属
弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 医学博士 弁護士 金﨑 浩之
監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)
東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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